再度の民法大改正!物権法等について(第6回)~相隣関係の改正について~
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<ポイント>
◆隣地使用権や竹木の枝の切除等に関するルールが見直されました
◆継続的給付(電気、ガス、水道等の供給)を受けるための設備設置権等に関する規定が新設されました

1 はじめに
民法における相隣関係の規定は、隣り合う土地同士の権利関係の調整を行うためのものです。今回の改正前から民法にて「第二編 物権」、「第三章 所有権」、「第二款 相隣関係」(第209条から第238条)として規定されています。国土の狭い日本国において、土地は経済的な価値もあることから重要な資産であるものの他の土地と接するのが通常であることから、こうした隣接する土地に関するルールを取り決めたものです。
境界標、壁、溝の設置等に関する規定が最もわかりやすいでしょう。
また、よく書籍で、隣地の竹木の根が自分の土地に伸びてきたらそれを切り取ることができるが、竹木の枝は自分で切り取ることはできず竹木の所有者(多くは隣地の所有者)に切除してもらわなければならない(民法第233条)と紹介されていることがありますが、これも相隣関係の規定です。
今回の民法改正では、相隣関係に関し古くなった規定の現代化が行われ、所有者不明土地への対応方法に関する規定も追加されています。

2 相隣関係規定に関する改正
相隣関係の改正点は次の3点です。
(1)隣地使用権のルールの見直し
(2)竹木の枝の切除等に関する見直し
(3) 継続的給付を受けるための設備の設置権等に関する規定の新設
以下に解説します。

3 解説
(1)隣地使用権のルールの見直し
ア 隣地に立ち入ることができるケースが追加されています。
現行法では、立入が可能なのは、境界又はその付近における「障壁、又は建物を築造し、又は修繕するため」に限定されています(現行法209条1項)。
改正法では、「境界標の調査又は境界に関する測量と枝の切除」、「第233条第3項の規定による枝の切取り」の場合も追加されました(改正法209条第1項2号、3号)。
イ また現行法では、「隣地の使用を請求することができる」とされ、あくまで隣地所有者に使用の「請求」をできる権利にすぎませんでした。しかし、改正法209条1項では、より直接的に「隣地を使用することができる」とされました。つまり、事前通知(あらかじめ通知することが困難な場合は事後の通知でも可)がなされれば隣地所有者の承諾がなくても使用することができるということです。
ただし、現行法と同様ですが同条項但書において、住家についてはその居住者の承諾を要することとされています(改正法同条第1項但書。現行法から一部表現が改められています)。
使用の仕方も隣地所有者や隣地使用者の損害が最も少ないものを選ばなければならないとされています(改正法同条第2項)。
隣地を使用したことで損害が発生した場合には、隣地所有者等は、隣地を使用した者に対して償金を請求することができます(改正法同条第4項、現行法209条2項)。
ウ 改正法の影響
以上のような改正により、実務的には例えば次のような対応となります。
隣地の所有者が判明しているケースで、隣地の使用者が立ち入りを拒んだときには、無理に立ち入ることはできません。この場合は、裁判所に訴えて立ち入りを認めてもらうことになります。
隣地の所有者や使用者が不明なケースでは、所有者等が判明した際に事後通知を行うことを前提として、隣地を使用することができます。境界を明確にすることは、一般的な不動産取引でも買主から要望されることが多く、また土地の国庫帰属承認申請にあたっても必要となりますが、隣地所有者の所在が不明であっても、一定の限度で隣地に立ち入りして調査をすることができるようになります。
(2)竹木の枝の切除等に関する見直し
管理が放棄されてしまった土地では、竹木が繁殖してその枝が境界線を越えて自分の土地にかかることは往々にしてあることです。
現行法では、竹木の所有者に切除等してもらわなければならないとの規定から何もできないことになりかねません。
改正法ではこうした場合に備え、土地の所有者が自ら切り取ることができる以下の3つのケースが規定されました(改正法233条3項)。
ア 竹木の所有者に切除するよう催告したにもかかわらず、相当期間内に切除しないとき。
イ 竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき
ウ 急迫の事情があるとき
これらのケースでは土地の所有者は隣地から伸びてきた枝を自ら枝を切り取ることができるとされました。切り取るときには隣地を使用することもできます(前掲改正法209条1項3号)。
(3)継続的給付を受けるための設備の設置権等に関する規定の新設
土地の形状や置かれた状況によっては、電気・ガス・水道などの日常生活に必要な設備について、私道などの隣地を利用しなければその供給を受けることができないときがあります。土地の有効活用のためにはこうした利用も一定程度で認めるのが望ましいです。
そこで、改正法では、必要な範囲で他の土地に設備を設置し、あるいは他人が所有する設備を使用することができることを明記しました(改正民法第213条の2第1項)。この規定も「使用することができる」となっており、「請求」できるにとどまりません。(=当然に設置・使用できるが、隣地所有者等が拒絶したら訴訟で解決する)。
設備の設置、使用は隣地所有者等にとって最も損害の少ないものを選ぶ必要があり(改正法同条第2項)、設置、使用にあたっては隣地所有者・使用者にあらかじめ通知を行わなければなりません(改正法同条第3項)。なお、設備の使用をするには、償金(≒土地等の使用料)を支払わなければなりません(同条第5項)。