内部通報制度における外部窓口設置のすすめ
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<ポイント>
◆内部通報制度充実のためには外部窓口が必要
◆外部窓口を設置する企業は増加傾向にある
◆外部窓口担当の弁護士は通報者の匿名性を守って素早い対応を

日経新聞によれば、オリンパスは2005年に内部通報制度を採用したものの、損失隠しに深く関与したとされる元監査役(当時、コンプライアンス担当)の反対で社外の弁護士等を通報窓口(外部窓口)とする制度は採用しなかったとのことです。
元監査役がどのような理由で外部窓口の設置に反対したのか不明です。
しかし、オリンパスが、費用がかかることや会社の事情を知らない外部の弁護士等では実効性が期待できないことを理由として外部窓口の設置をしなかったのであれば、同社は真剣にコンプライアンス体制を構築しようとはしていなかったというべきでしょう。
外部窓口は内部通報制度を実効性あるものにするための有効な手段なので、費用がかかるのはやむを得ないし、会社の事情を知らないことについては内部の担当部門がサポートすればよいことです。
オリンパスとほぼ同時期に不祥事が明らかになった大王製紙が不祥事発覚後の昨年(平成23年)12月になって外部窓口を設けて運用を開始したことは、コンプライアンス体制構築に不熱心な会社は外部窓口の設置にも不熱心であることをうかがわせるものです。
多くの上場会社はコンプライアンス体制構築に前向きなためか、上場会社の約60%が外部窓口を設置しており、しかも外部窓口を設置する上場会社の割合は増加傾向にあるとのことです(2009年に公表されたある民間調査による)。
非上場会社でも、船場吉兆などの例のように、コンプライアンス違反が会社の存続に関わることは上場会社と変わりませんが、本稿ではより社会的影響の大きい上場会社を念頭において述べることとします。

内部通報制度とは、法令違反などのコンプライアンス違反が行われたことやその可能性があることを知った従業員などが、あらかじめ定められたコンプライアンス違反に対応する窓口に直接通報できるシステムのことです。
公益通報者保護法施行にともなう内閣府国民生活局発表のガイドラインでも通報窓口を整備すべきことが明記されています。
そのため、上記の民間調査によれば、ほぼすべての上場企業が内部通報窓口を設置しています。
名称は、企業によって「ヘルプライン」「ホットライン」「コンプライアンス相談窓口」などさまざまです。
内部通報制度を実効あるものにするためには従業員等の制度に対する信頼が不可欠です。
そのためには、通報者の匿名性の確保が最も重要です。匿名で通報できなければ、会社やコンプライアンス違反者からの報復を恐れて、通報しようという気持ちになりにくいのは当然です。
会社が内部通報制度をつくる際には、通報者に対して不利益な取り扱いをすることを禁止しますが、それでも通報者の不安は拭いきれません。
この匿名性の確保のために有効なのが内部通報の窓口を弁護士事務所など社外にも設置することです。
通報者としては、会社から匿名性を確保すると約束されても、会社の内部窓口に通報することには不安を覚えるかもしれませんが、弁護士等の外部窓口への通報であればあまり心配しないだろうからです。

多くの会社では、外部窓口の弁護士に対して通報があった場合、通報者が希望すれば弁護士は社内の担当部署に対して匿名の通報として報告できることにしているようです。
ただ、従業員等が弁護士に通報する際に実名を告げる必要があるかどうかは、それぞれの企業で考え方が分かれるようです。
私見としては、内部通報制度は情報を吸い上げることが最も重要なので、できるだけ間口を広くするべきであり、通報者が希望するのであれば弁護士に対しても匿名で通報できるようにする方がいいと思います。
いずれにしても、弁護士が通報事項の調査をする場合や会社に調査を求める場合、通報者の匿名性の確保には最も気をつかう必要があります。
そのため、定期的あるいは臨時の一斉調査を行って通報事項の調査であるこがわからないようにするなど、通報があったことや通報者を知られないような努力が必要となります。

また、制度に対する信頼のためには、会社が通報に対して適切に対応することが必要です。通報しても会社が対応してくれなければ通報しようという熱意は起こりません。
この点においても、通報窓口が弁護士であれば、弁護士は会社に対して調査を要求するであろうという期待ができます。
これに対応して、外部窓口を担当する弁護士は、迅速かつ適切に対応しなければなりません。とりわけ、通報者にできるだけ早く返答し、調査が必要な場合は調査結果伝達の見通しを告げなければなりません。
また、些細な通報と思える場合でも何かしら問題点はないかを意識して注意深く聞くことが必要です。
実際に外部窓口を担当すると、人間関係に端を発する労働問題や処遇不満などに関する通報が多く、会社の存亡に関わるようなコンプライアンス違反の情報が外部に流出する前にキャッチするということはなかなか経験できません。
しかし、労働問題、処遇不満などの通報を疎かに聞いていては、本当に会社の存亡に関わる情報も収集できないと思います。
労働問題、処遇不満などの通報を丁寧に聞いて処理するからこそ、重要な情報の通報がありうると考えるべきでしょう。

最後に、内部通報制度や外部窓口を活かすためには、不断の努力により社内に周知徹底させ続けることが必要です。
そのためには、継続して研修、携帯カードを配布、掲示板などにポスター等を貼る等の努力をしていかなくてはなりません。
その上で、情報を吸い上げるためには、コンプライアンス違反を知った従業員には通報義務があることを就業規則で定めることも検討するべきです。
会社のコンプライアンス違反を知った従業員が必ずしも是正に熱意があるとは限らないからです。現実に通報義務を課している企業もあるようです。