内部通報制度におけるモニタリング
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<ポイント>
◆内部通報制度の活性化のためにも継続的モニタリングが重要
◆担当するのは直接的には内部通報事務局
◆手法としてはアンケート調査や聞き取り調査

「モニタリング」とは一般的に「監視」という意味ですが、内部通報制度においては次の2つの視点があります。
1 特定の内部通報案件に関する事後チェック。その対象は2つあります。
(1) 取られた是正措置や再発防止策が想定どおりの効果を発揮しているか、つまり、その部署の業務が正常かつ健全な状態で運営されているか。
(2) 内部通報制度が適切に機能したか。通報者が不利益や嫌がらせを受けていないか。
2 内部通報制度の運用状況全般に関する継続的チェック
内部通報制度が社員によって広く認知され、その目的が理解され、問題なく、また効果的に機能しているかを常時監視することです。

これらのモニタリングにおいては次のような点に着目してチェックが行われます。
(内部通報制度と直接関係がない上記1、(1)の解説は割愛します。)
特定の内部通報案件に関するチェック項目(上記1、(2))
① その部署の社員は、問題が内部通報によって表面化したことを評価しているか、それとも不愉快に感じているか。
② 内部通報を行った通報者に対して好感をもっているか、それとも批判的感情を持っているか。
③ 「部署内解決」(察知した者がその部署の上司に連絡・相談し部署内で解決すること)ができなかったことに反省があるか。
④ 「通報者探し」(犯人さがし)が行われなかったか。通報者(とおぼしき人物)に対する嫌がらせなどは行われなかったか。
⑤ 通報者は、通報したことによる心の葛藤、回りの冷たい視線などに悩んでいないか。
など。

内部通報制度全般に関するチェック項目(上記2)
① 内部通報制度が不正行為防止、コンプライアンス経営等のために必要・有用な制度と理解・評価されているか。
② 不正行為等を察知したにもかかわらず「見て見ぬふりをする」ことをどう考えるか。
③ 内部通報者(誰かがわかったとして)に対し、会社や上司から不利益な取扱いや嫌がらせと受けることはないか。
④ 上司や同僚から嫌がらせ等を受けた場合、会社は通報者を守ってくれると思うか。
⑤ 内部通報者に嫌がらせ等の行為を行った場合、会社や上司から叱責や制裁を受けると思うか。
など。

モニタリングの担当部署、担当者について
個別案件についても全般問題についても、直接的には内部通報事務局が担当することになると思われます。
但し、個別案件については、問題になった部署の管理職、その上部組織の管理職なども他人事ではなく、レポートを求められたようなときは当然協力すべきです。
モニタリング結果は、内部通報事務局から、コンプライアンス担当部門、内部監査部門、監査役などに報告され、経営情報として共有されることになります。
モニタリングの過程で問題が発見されたときは、しかるべき手順を経てその対策を決定し、実行されなければなりません。
問題の規模や影響が大きい重大不祥事については、全社的経営態勢の問題、内部統制システムの問題として取り組まなければならない場合もあります。

モニタリングの具体的な手法について
個別案件については、内部通報事務局が適当な時期に通報者やその部署の管理職、場合によっては被通報者とコンタクトし、聞き取り調査を行う必要があります。
聞き取り調査に先だって、関係者にアンケート調査を実施することは効果的、効率的な方法です。アンケート調査や面談は一度だけでは不十分な場合もあります。そのときは、回を重ねて、あるいは定期的に実施することも考えられます。
内部通報制度に関する全般的モニタリングにおいてもアンケート調査は効果的と言えます。それによって問題の端緒をつかんで、聞き取り調査などより深い調査方法に進んでいくというのはモニタリングの常套手段です。
このようなモニタリングの方法や活動について内部通報制度運用規程などに明記している会社もあります。

ところで、内部通報制度に関し会社が継続的にモニタリングを行っていることを一般社員に知らしめることは必要かつ重要なことです。
個別案件で言えば、被通報者(不正行為者、加害者)に対し同様の問題を引き起こさないようにプレッシャーを与える効果があります。
通報者に対しては、自分は内部通報によって不利益な取扱いや嫌がらせを受けないように守られているという安心感を与えることができます。
そして、社員の多くが、内部通報制度を利用しても通報者に不利益がなく問題の是正に効果があることを実感できるようになります。
社員にこのような実感を抱かせることができれば、社内で不正行為等に気づいたときは躊躇なく内部通報制度を利用するという社内風土が醸成されます。
内部通報案件の処理後のモニタリング、内部通報制度の運用に関する継続的モニタリングを適切に行うことにより、内部通報制度が活性化し、その効果を十全に発揮できるようになるのです。