内部通報に関する聞き取り調査の担当者
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<ポイント>
◆事実調査の中心は関係者からの「聞き取り調査」(ヒアリング)である
◆「聞き取り調査」を行う担当者は「事務局」が適任者を選定し、委嘱する
◆最も効率的に「聞き取り調査」を実施できるのは要調査部門の管理職

内部通報に関する事実調査の中で、関係者に対する「聞き取り調査」が最も重要であること、また、「聞き取り調査」の対象者として想定される人物についてはいずれも前回述べたとおりです。
以下では、「聞き取り調査」を実施する担当者について具体的に述べていきます。

ところで、本連載においては、「内部通報制度」に関わる全体的組織についてまだ説明しておりません。いずれ説明する機会はあると思いますが、ここでは、次のことだけを認識しておいてください。
近年、重大な企業不祥事が多発したことに鑑み、多くの企業で「コンプライアンス経営」を特別に監視、推進する部門が設置されるようになりました。「コンプライアンス室」、「コンプライアンス推進本部」、「コンプライアンス委員会」、「CSR委員会」等々、伝統的な組織とは異なる名称や位置づけの部門が設けられています。「内部通報制度」はその機能や性格からして、この部門の所管とされるのが通常です。
この組織の特徴としては、経営トップ(代表取締役や執行役員)の直轄ないしそれに近い形であること、横断的な人事(監査役を含む)や外部者(弁護士等)を含めた委員会組織とされること、日常的・事務的な業務を担当する「コンプライアンス事務局」などが置かれること、などがあげられます。事務局は企業の法務部門(法務部など)の中に置かれる(担当者も兼務する)ことが多いようです。
今まで、内部通報制度に関し、「社内窓口」とか「聞き取り調査担当者」など、個別の役割について述べてきましたが、これらの事務的部分を担当するのは(具体的名称は別として)「内部通報事務局」です。これは「コンプライアンス事務局」の一部と理解できます。
「内部通報事務局」の職務としては、まず内部通報の社内窓口となることがあげられます。その後、事実調査に当たっては、その方法を検討・立案し、自身でも聞き取り調査に当たり(通報者などについて)、また他の部署、他の関係者に聴き取り調査を要請します。事実調査が一応完了した後も、様々な事務的職務があります。
今後はこの「内部通報事務局」という名称を多用しますので、上記のような概念とご理解ください。
今まで「社内窓口」と言っていた部署と同じです。

さて、本論に戻って、「聞き取り調査」の実施に当たるのは誰かについて説明を続けます。
①内部通報事務局の担当者
内部通報事務局(以下単に「事務局」といいます)において通報を受理した担当者がみずから通報者などの「聞き取り調査」に当たることが少なくありません。事務局ではすでにかなりの情報を持っています。弁護士経由の場合も含めて、受理の段階で通報者と多少とも会話を交わしているし、その段階で先行的「聞き取り調査」を行っているからです。

②社外窓口たる弁護士
通報宛先が社外窓口(弁護士)であり、通報者が「会社への匿名」を指定していた場合は、事務局担当者は通報者の「聞き取り調査」を行うことができません。通報者が誰か知らないからです。
この場合は、通報を受理した社外窓口の弁護士が通報者の「聞き取り調査」を担当します。面談は事実上困難を伴うため、メールやファックスでの交信による「聞き取り調査」が多くなります。
但し、前にも述べたように、弁護士が仲介をして、事務局担当者に対してのみ匿名を解除することを通報者が承諾した場合は、直接の聞き取り調査が可能となります。

③要調査部署の管理職
事務局担当者が、通報者以外の人物に対し「聞き取り調査」をすることは通常困難です。
例えば、某営業課でAという社員が背任行為を行っているとの内部通報があったとしましょう。
社員Aや参考人となる社員(仮にB)に対して「聞き取り調査」をする必要がありますが、事務局はAという人物を知らず、Bについてのアイデアもない場合が普通です。
その場合は、事務局から、問題部署(要調査部署)の管理職(課長、部長など)に事情を話し、彼らにAやBに対する「聞き取り調査」を委嘱する方法が効率的です。彼らはその部署の業務の実態(その裏表)や部下社員の資質・性格を知悉しているからです。
逆に、管理職側とすれば、自分が管理責任を負う部署において事務局担当者が部下に直接「聞き取り調査」を行うことには反発を覚えるかもしれません。
もっとも、設例の場合は、課長にAやBの「聞き取り調査」を依頼するのは疑問があります。ひょっとすると当の課長もAの違法行為に関わっているかもしれないからです。なぜなら、通常Aの行為を察知した通報者は、そのことについて直属の上司である課長に報告、相談すべきところ(いわゆる部署内解決)、そうしないでわざわざ内部通報制度を利用したのですから。
このような場合は、課長にAなどの「聞き取り調査」を依頼するのではなく、その上司である部長に事情を話し、部長に、(Aを含め)適当な人物からの「聞き取り調査」を依頼するのがベターと考えられます。
いずれにしても、その部署の管理職に事実調査の一翼を担ってもらうことは効果的でもあり、必要的とも言えます。前に「部署内解決」や「部署内自浄作用」の必要性を述べましたが、上述の手法は(内部通報がなされた後とはいえ)実質的にこの要請に合致するものでもあります。
なお、部署内管理職が「聞き取り調査」を実施する際、了解を得て、事務局担当者が同席することは「部署内解決」の実践に反するものではなく、むしろ望ましいといえます。さらに進んで、必要に応じて、その管理職の了解を得て、事務局担当者のみで「聞き取り調査」を行うこともあります。

④社内監査部門、人事部の担当者など
例えば、不正な経理操作があるとの内部通報があった場合、それに関連する監査業務を日常的に行っている内部監査室のような部署の担当者に対し、事情を説明して、事実上の「聞き取り調査」を依頼するという場合もあります。
また、セクハラ、パワハラ、労働問題などについては、人事部の担当者、カウンセラーなどに「聞き取り調査」を依頼するという場合もあります。

⑤担当取締役、執行役、監査役など
例えば、子会社が会社ぐるみで粉飾決算を行っているとの内部通報があったとしましょう。
それは企業の信用や存続にも関わる重大問題であるため、その事実調査にも慎重でなければなりません。「聞き取り調査」に当たっても、責任ある地位にある役職者が直接指揮し、自ら実行することが適当と思われる場合もあります。担当取締役や監査役がその任に当たることもあり得ます。弁護士の関与、同席も必要ないし有益な場合があると思われます。

⑥「社内調査委員会」
問題が重大で、また役員が関与している可能性のある問題などで、事務局はもちろん、社内の既存組織では事実調査が容易でない場合、既存組織を越えた横断的な要員を集めて「調査委員会」を立ち上げ、ここが専門的、集中的な事実調査に当たるという場合もあります。その人的構成は事案によって異なってきます。弁護士の関与、同席はこの場合も必要、有益と思われます。

⑦「第三者委員会」
会社にとって重大問題であるだけでなく、その規模が大きく、かつ複雑で、社内の組織では事実究明が困難と思われる場合、また、社会的影響が予想され、社会から透明性のある事実調査が求められるような場合は、外部の学識経験者(学者、弁護士などを含む)で構成される第三者委員会が設けられる場合があります。そして、ここで「聞き取り調査」を含む事実調査が行われ、その後の公表まで担当することになります。
昨今、企業や団体の不祥事に関連して、実際に多くの「第三者委員会」が設けられ、その動向がマスコミの耳目を集めています。