公認会計士による内部統制監査

5月10日付けの日経新聞によりますと、金融庁は、企業は日々の業務遂行や内部管理の状況、取締役会の意思決定過程などを文書化し、公認会計士がそれをチェックする制度を導入し、2008年3月期にも企業に義務付ける予定だということです。公認会計士は、会計監査の際にこれらの文書をチェックして、問題があると判断した場合には「不適正」意見等を監査報告書に載せて、投資家に公表することになります。この制度は、アメリカの証券法をお手本にしたものと解説されています。

アメリカでは、エンロン事件やワールドコム事件を契機として、3年前の2002年に企業改革法(サーベンス・オクスリー法)が制定され、同法404条では、財務報告に関する内部統制の仕組みや手続きについての経営者の責任や会計監査人(公認会計士または監査法人)の評価等が年次報告書に記載されなければならないと規定しています。
この会計監査人のチェックの実効性を高めるために、会計監査人は、経営陣からの独立性を維持していなければならず、たとえば、監査をする会社(の経営陣)から依頼を受けて監査以外の業務(投資アドバイス等)を行うことは原則として禁止されています。また、会計監査人に対しては監査委員会が任命、報酬及び業務の監督について直接的な責任を有しており、経営陣からの干渉を排除しています。そして、監査委員会は、経営陣に対する強い独立性を有しており、たとえば、監査委員会は、独自に弁護士に法的アドバイスを受けることもでき、そのために予算も確保されています。アメリカにおける会計監査人のチェック制度は、これら監査委員会、会計監査人の独立性を維持する諸制度を背景にしています。

金融庁が導入しようとしている新制度は、会計監査人が、企業の内部統制に関する事項をチェックして、それに対する評価を監査報告書に記載するものであり、アメリカの制度に類似したものと思われます。
しかし、会計監査人は、日本の上場会社の大多数を占める監査役会設置会社においては監査役会の同意を得て、株主総会で選任されるのですが、会計監査人の人選は経営陣がすることになります。日本の上場会社の中に数十社ある委員会設置会社でも、監査委員会が会計監査人の人選をするのですが、日本の監査委員会には、アメリカにおけるような会計監査人の監督等に関する諸制度が定められているわけではありません。そのため、会計監査人が経営陣から独立して内部統制に関する事項をチェックできるかは、監査役会、監査委員会の権限強化に向けた今後の取組みによって左右されるのではないかと思われます。