令和3年特許法改正について ~その3
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<ポイント>
◆海外からの模倣品流入に対する規制の強化

1 従来の制度 (商標法・意匠法)と問題点
(1)商標法及び意匠法上では、権原なく「業として」登録商標または登録意匠を使用・実施する行為には、商標権及び意匠権の侵害が成立します。
この「使用」及び「実施」(いずれも侵害とみなす行為を含みます)の一類型として「輸入」があり、権原なく「輸入」する行為には商標権及び意匠権の侵害が成立しうることになります。
しかし、「個人使用目的」で模倣品を輸入する行為は、「業として」行うものではないことから商標権及び意匠権の侵害が成立せず、こうした輸入に係る物品は、商標権及び意匠権の侵害が成立しないとされていました。
(2)税関において、知的財産権の侵害品の取締りを実効的に行うため、知的財産権を侵害する物品は、関税法に基づく没収等の対象とされているものの(関税法第69条の11第1項第9号及び第2項)、上記のとおり従来の制度では、個人使用目的で模倣品を輸入する行為には商標権及び意匠権の侵害が成立しません。そのため、こうした輸入に係る物品は、関税法に基づく没収等の対象となりませんでした。
より具体的には、税関における没収の前提として、税関長が知的財産侵害物品に該当するか否かを認定するための手続(関税法第69条の12)を執ることとされていますが、この手続において、輸入者が、「個人使用目的」であると主張した場合、個人使用目的でないとは認められず商標権・意匠権の侵害物品として没収等することができない場合がありました。
近年、インターネットを通じた取引の増加もありこのような模倣品の個人使用目的の輸入が急増し、模倣品の国内への流入増加に歯止めをかけることができていない状況でした。

2 改正の概要
(1)外国にある者が、郵送等により、商品等を国内に持ち込む行為を商標法及び意匠法における「輸入」行為に含むものと規定することにより、当該行為が事業者により権原なく行われた場合に規制対象となることを明確化する改正がなされました。
具体的には、商標法第2条第7項で、外国にある者が外国から日本国内に「他人をして持ち込ませる行為」を、商標法上の「輸入」行為(同法第2条第3項第2号等)に含まれるものとする解釈規定が新設されました。また、意匠法第2条第2項第1号で、同様の行為を、意匠法上の「輸入」(同法第2条第2項第1号等)に含む旨が定義に追加されました。
「他人をして持ち込ませる行為」とは、配送業者等の第三者の行為を利用して外国から日本国内に持ち込む行為(例えば、外国の事業者が、通販サイトで受注した商品を購入者に届けるため、郵送等により日本国内に持ち込む場合が該当する。)をいう、とされています。なお、第三者の行為を利用することなく、自ら携帯品として日本国内に持ち込む行為(ハンドキャリー)は、本改正前から「輸入」行為に該当すると解されており、事業性のある場合には商標権又は意匠権の侵害が成立し得ます。
(2)行為の対象範囲
本改正は、「外国にある者」を主体とする行為を定めるものです。その行為のうち日本国内に到達する時点以降を捉え、国内における行為として規定するもので、日本の領域外における行為(外国における発送等)は規制対象に含まれないとされています。こうした構成により、日本の商標権等の効力をその領域外に及ぼすものとせず、属地主義に反しないとする建付けになっています。
(3)「輸入」行為を含むその他の条文
商標法上の「輸入」行為を含むその他の条文(商標法第26条第3項、第37条、第67条及び第74条)についても同様の解釈となるよう、新設する同法第2条第7項において、「この法律において、」と規定しています。また、意匠法上「輸入」を含むその他の条文(意匠法第2条第2項第1号、第38条、第44条の3及び第55条)についても、同じ趣旨から、同法第2条第2項第1号において、「以下同じ。」と規定しています。

3 施行期日及び経過措置
施行日は、令和4年10月1日です。
経過措置として、いずれも施行日前にした行為については、「従前の例による」とされています。この経過措置により、改正法施行後の行為が、侵害行為等となることが明確にされています。