令和元年会社法改正(第6回)~株式交付制度について~
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<ポイント>
◆株式交付親会社は現物出資に係る規制を受けずに、自社の株式等を株式交付子会社の株主に交付することで子会社化が可能に
◆株式交付は、株式交付親会社と、株式交付子会社の株主間の個別の株式譲渡により実現

今回は改正法により創設された組織再編スキームである「株式交付制度」について説明します。なお、2018年7月9日に改正法が施行された産業競争力強化法における株式を対価とした手法については、文字数の制限から本稿では言及しません。

1 改正前の制度
改正前の制度としては、会社法上、他社を子会社化しようとする場合に、金銭ではなく自社株式を対価とするときは株式交換と現物出資という2つの選択肢しかありませんでした。
しかし、株式交換は、完全子会社化する場合にのみ採用できる方法です。また、完全子会社としない場合は、買収会社は、対象会社株式を現物出資財産として会社法199条1項の募集をする必要がありました。しかし、原則として検査役の検査が必要であるため、その検査に一定の期間が必要となり費用も発生します。取締役が財産価額填補責任を負うことになります。さらに、対象会社株式にプレミアムを上乗せする場合には有利発行の問題も生じ得ます。そのため、買収会社は金銭のみを対価とする場合がほとんどであるという指摘がされていました。
しかし、他の株式会社を子会社としようとするとき、株式交換以外の場合でも株式を対価とする買収をより円滑に行うことができるように見直すべきという指摘がありました。
そこで、買収会社が対象会社を完全子会社化することを予定していない場合であっても、会社法199条1項の募集によらずに買収会社の株式を対価として子会社化を行えるように創設されたのが株式交付です。

2 株式交付制度の概要
改正法により創設された株式交付制度の場合、買収会社が子会社となる対象会社の株主から株式を譲り受け、対価として買収会社株式を交付します。「交付」には新株の発行に加え自己株式の処分も含まれます。また、一部の対価を現金にすることも認められています。手続の概要は以下のとおりです。
(1)株式交付計画の作成
買収会社は株式交付をする場合には、株式交付計画を作成しなければなりません。
(2)買収会社の手続
株主及び債権者保護の手続については、基本的に株式交換に準じた規律とされています。要旨、a)事前開示手続、b)株主総会における株式交付計画の承認(特別決議。ただし、簡易要件については、会社法816条の4第1項)、c)事後開示手続、d)株式交換に伴う発行済株式数、資本金の額の変動について変更の登記が必要となります。
また、株式交付の差止請求、反対株主の株式買取請求、債権者異議手続も定められています。
(3)対象会社の手続
株式交付において、対象会社の手続に関する規律は設けられていません。
(4)対象会社の株式譲渡の申込み等
株式交付は、対象会社の株主から買収会社への株式の譲渡となります。そのため、対象会社の株式の譲渡の申込み、承諾及び譲渡目的物の給付の手続は、募集株式の発行等における引き受けの申込み、割り当て及び現物出資財産の給付の手続に準じたものとされます。a)買収会社から、対象会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対する株式交付計画の内容の通知、b)当該株式の譲渡しをしようとする者による申込み、c)買収会社による割当て及びその通知、d)対象会社の株式の買収会社に対する給付という手続となります。
(5)株式交付の効力の発生
対象会社の株式を給付した譲渡人は、当該株式の給付により買収会社の株主となるわけではなく、効力発生日に買収会社の株主になるとされています。

3 注意点
(1)買収会社も対象会社も株式会社でなければなりません。
(2)対象会社を子会社にする場合に限られます。既に子会社である会社の株式を買い増す場合や、対象会社を子会社としようとしない場合は利用できません。また、子会社は会社法施行規則3条3項1号の子会社(議決権割合が50%を超える子会社)に限られます。ただし、対象会社がすでに会社法施行規則第3条3項2号に掲げる場合の買収会社の子会社(実質支配力基準の子会社)に該当しても、同項1号に掲げる場合の子会社にしようとするときは、利用できます。
(3)株式交付親会社が上場会社である場合には、株式交付親会社の株式の交付について金融商品取引法上の発行開示規制の適用対象となることがあります。
(4)株式交付子会社が上場会社である場合には、株式交付子会社の株式の譲受について金融商品取引法上の公開買い付け規制の対象となります。
(5)株式交付子会社の株式が譲渡制限株式であるときは、譲渡承認手続が必要となります。