不良債権について
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不良債権とは、金融機関が融資した後に、回収困難に陥った貸出金のことです。商社や一般事業者が商品を掛け売りしたときの売掛債権なども、それが回収困難になればはやはり不良債権ですが(これも最近増大し問題にはなっていますが)現在社会的、政治的により大きな問題となっているのは金融機関の貸出債権のなかの不良債権です。これほどまでに深刻な社会問題になるのは、金融機関が経営不振に陥ったり破綻(はたん)したりすると、そこに資金を預け入れている多数の預金者や、そこから融資を受けている多数の企業に大きな悪影響が出て、国全体の経済システムが機能不全に陥るおそれがあるからです。
金融機関の貸出債権のなかでどれだけ不良債権があるかを判断するには、まず回収が不安または困難な貸出先(債務者)をその不安度に応じて「債務者区分」(格付け)します。そのうえで、不良債権を「破綻先債権」「実質破綻先債権」「破たん懸念先債権」、それに「要管理債権」を含む「要注意先債権」として把握します。法的整理を申請した企業への融資は破綻先債権、債務超過など経営が困難な企業に対する融資は破綻懸念先債権、元利金の返済が3ケ月以上延滞しているか、貸出条件を緩和している融資は要管理先債権というように区別して把握し、それらの合計額が不良債権ということになります。もっとも「不良債権」という場合、厳密には3種類の概念があるのですが、くわしい説明は割愛します。
各金融機関は不良債権について、決算期ごとに公表する義務があります。どの金融機関のどの支店に行っても、いわゆる「ディスクローズ誌」が置いてあり、誰でもこれをもらってその金融機関の不良債権やその他の経営状況を知ることができます。
平成14年3月末の不良債権の実態はまだ正式には公表されていませんが、新聞等では次のような見通しが報じられています。大手12行の不良債権は総額24兆円で、これは平成13年9月末と比べて20%強、1年前と比べると40%弱も増加しています。その原因は、デフレによる債務者企業の経営不振に加えて、金融庁の特別検査で貸出資産の査定が厳しく行われたからです。
不良債権の増加は当然銀行の決算に悪影響を与えます。まず貸し倒れに備えた「引当金」を積み増ししなければならず、これは一応損失として計上されます。また、ダイエーやゼネコンで報じられているような「債権放棄」をすると、今までの引当金で足りない分を「消却損失」として計上します。さらに、不良債権を整理回収機構や外資系資本などに売却して(もちろん簿価より大幅に減価しないと売却できません)帳簿から不良債権そのものを消してしまい、簿価との差額を売却損として処理することも行われます。以上3パターンの方法でいわゆる「不良債権処理」が行われるのです。
金融機関の決算ではこの不良債権処理のほかに、保有している有価証券(主に株式)の「減損処理」という厄介な課題があります。最近の株価下落で多くの株式で「含み損」が出ており、健全な決算とするには保有株式の購入価格ではなく時価で計上すべきとの要請があるからです。
以上、不良債権の処理や有価証券の減損処理を実行することにより金融機関に大幅な損失が発生します。これをカバーできるだけの収益(とくに本業のもうけである業務純益)が十分にあれば問題はなく、黒字決算をすることができますが、そうでないと赤字決算になります。今年3月末の多くの金融機関の決算はしたがって赤字です。余剰金を食いつぶし、自己資本の一部を取り崩さなければならないところまできています。
ただ、3月末における株価が一時よりは持ち直したため、金融機関が保有する株式の含み損が減少し(含み益をもった金融機関もあります)、最終的には一定の「自己資本比率」は確保できることになった模様です。自己資本比率は金融機関の健全性を示す代表的な指標で、これが一定の数字を下回るとその金融機関は経営危機に陥ります。この3月期にはそこまでの悪い状態にはならなかったため、自己資本を増強するためいわゆる「公的資金の投入」が行われなくても、当面の「金融不安」や「金融危機」は回避できる見込みです。