不当表示に対する排除命令
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2008年4月9日の日経新聞朝刊によると、公正取引委員会は、王子製紙や日本製紙など8社が再生紙の配合率を実際より高く表示したことが、景品表示法が定める「優良誤認表示」に当たるとして、排除命令を出す方針を固めたとのことです。
近時、不当表示に排除命令が出されるケースが増えているように思われます。不当表示に対する排除命令の概要を手続きを含めご説明します。

「優良誤認表示」とは、一般消費者に対して、商品やサービスの品質など内容の点で実際のものよりも著しく優良であると示すか、あるいは、事実に相違してライバル社のものよりも著しく優良であると示すかして、「不当に顧客を誘引し」、「公正な競争を阻害するおそれがあると認められる」表示をいいます。直近では「デトックス」による痩身効果を標榜する商品に関する表示がこれに当たるとされ、4月1日、2社が公取委から排除命令を受けています。ちなみに「デトックス」とは特定の食品の摂取などによって体内の有害物質を排出する健康法として一般にいわれています。
これに対して「有利誤認表示」とは、商品等の価格など取引条件の点で、実際のものやライバル社のものよりも、取引の相手方にとって著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、「不当に顧客を誘引し」、「公正な競争を阻害するおそれがあると認められる」表示をいいます。直近の例では、電話番号案内サービス「DIAL104」に関する東日本、西日本それぞれのNTTのコマーシャル等が、あたかも、DIAL104の利用には料金が掛からず、かつ、DIAL104を利用してもDIAL104を利用しない場合と同じ通話料で接続された先との通話ができるかのように示す表示をしていたとして、排除命令を受けました。

排除命令を出すため公取委は任意で調査を行いますが、優良誤認表示に関しては、必要があれば、事業者に対して、期間を定めて当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます。この場合に、その期間内に、そういった裏付け資料を提出しなければ、優良誤認表示とみなされます。資料を提出してもそれが合理的な根拠を示すものと公取委が認めなければ優良誤認表示となってしまうので、かなり強力な権限が公取委に認められています。
そういった調査を経て排除命令を出す方針を固めた段階で、公取委は行政手続法に則って、当該事業者に対して、予定される排除命令の内容を記載した文書をもって弁明の機会を与えるとの通知を出します。前記王子製紙や日本製紙などは今この段階にあるようです。弁明書と証拠の提出期限は2週間後です。

その機会を経て排除命令が出されることになります。排除命令では、当該表示が優良誤認表示や有利誤認表示にあたる旨公示すること(新聞で「謹告」の形で出すのが通常。)や、以後当該表示を行わないこと、再発防止策を講じて社内で徹底することなどが命ぜられます。公示の方法に関しては、事前に公取委の承認を受けなければなりません。

この排除命令に不服があれば、排除命令書が送達された日から30日を経過するまでの間、公取委に対して「審判請求」をすることができます。ちなみに、審判請求をしても当然に排除命令の効力がなくなるわけではないので、特別に執行停止の決定を得ない限り、排除命令に従わなければなりません。これに違反すれば、50万円以下の過料に処せられます。
30日以内に審判請求しなければ、その排除命令は確定します。確定した排除命令に従わなければ、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。会社に対しても同様の罰金刑が科されます。代表者が知っていて放置した場合は代表者にも同様の罰金刑が科されます。確定した排除命令は被害者に対する無過失損害賠償責任の根拠にもなり得ます。損害額の立証が難しいとされ、これまではあまり活用されていないようですが。
審判請求に対して公取委(ないし審判官)は審判手続を行います。裁判類似の対審構造型の手続きで審理がなされ、棄却審決、取消・変更審決などの判断がなされます。
この審決に対してさらに不服があれば、審決の効力発生日から30日以内に、東京高等裁判所に、公取委を被告として審決取消訴訟を提起することができます。

なお、今通常国会に提出された独占禁止法および景品表示法の改正法案では、不当表示に対してこれまで課されていなかった課徴金が盛り込まれており、当該表示をした商品等の過去3年の売上の3%の金額が課徴金として課されています。ただし、その金額が300万円以下であるか、または不当表示であることを知らず、かつ、著しく注意を怠ったものではない、という場合は課されないという内容になっています。