不動産業者が不動産を売る際の説明義務
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<ポイント>
◆日照阻害のおそれについても説明義務の対象となる
◆購入不動産の減価分または慰謝料が説明義務違反による買主の損害となる

マンションの杭打ち工事のデータ改ざんは、横浜市だけでなく北海道でもなされていたことが発覚し、問題が大きくなっています。マンションは高価なものですので、ひとたび問題が起これば大きな悩み、または紛争となることはいうまでもありません。
今回は、分譲マンションの販売に関連した事案として、不動産業者が分譲マンションを販売した後、そのマンションの南隣に新たなマンションを建築したところ、日が当たらなくなったこと(日照阻害)、事前に説明がなかったこと(説明義務違反)を理由として、もとのマンションの買主から損害賠償を求められた事例を紹介したいと思います(神戸地裁平成25年6月6日判決、大阪高裁平成26年1月23日判決)。

日照阻害そのものについては、神戸地裁はまず、土地の権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによって生じた損害が隣人にとって一般に受忍すべき限度を越えたといえるときは不法行為が成立するとの最高裁判例(昭和47年6月27日第三小法廷判決)を示しましたが、結論としては不動産業者の不法行為責任を否定しました。
その理由は概ね以下のものでした。
①これらの地域には法的に日影規制(日照を確保することを目的とした建築物の高さ制限)が適用されないこと
②もとのマンションの敷地に設けられたジョギングコース等に日影が生じるとしても、もとのマンションの居住者の生活環境に重大な影響を与えるとはいえないこと
③生活環境にとって最も重要な各戸の採光部(ベランダサッシ)における日照時間は、概ね4時間以上確保されていることなど

もっとも、良好な住環境を享受することを期待していたもとのマンションの買主に対し、周辺の住居とは異なって購入マンションの敷地には日照について法的に保護されていないことの説明がなかった点について、不動産業者は慰謝料を支払う義務を負うと結論づけました。

これを受けて不動産業者は控訴しましたが、大阪高裁ではさらに、もとのマンションの販売当時から不動産業者が南隣の土地にマンション建築計画を立てていたことに着目しました。そのうえで、もとのマンションについて日影規制等による保護を受けないこと、南隣の土地に新たにマンションが建築されると日照に影響が及ぶ可能性があることを説明する義務が不動産業者にはあったと判示し、結論を覆しませんでした。

なお、この事例では、買主の損害に対する賠償として慰謝料が問題となりましたが、多くの裁判例では、売主の説明義務違反があって「実際の売買代金」と「適切な説明がなされたときに想定される売買価格」との間に差(減価)が生じるときには、その減価分が買主の損害となると判示されています。
たとえば、不動産業者が宅地を売るにあたって隣接地に高架道路建設計画があることを説明しなかった事案では、高架道路の建設による土地の減価分について売主が賠償義務を負うとされた裁判例があります(松山地裁平成10年5月11日判決)。

同じように考えると、前述の日照問題の事案でも、慰謝料の有無ではなく日照阻害の可能性の説明がなされたときに想定される売買価格との差額(実際の価格からの減価分)が争点となってもよいように思われますが、そうはなりませんでした。おそらく、日照阻害がないことを前提としてもとのマンションの価格が決められたとはいいにくいことから減価分の問題ではなく慰謝料の問題としたと考えられます。