下請法が適用される取引

世界的な景気後退の影響を受け、景気の下降局面が長期化するおそれが高まり、特に中小企業の資金繰りの厳しさが増すとして、公正取引委員会は11月27日、資本金1億円以上のメーカー7600社、および、資本金5000万円のサービス業12100社などに対し、下請代金支払遅延等防止法の遵守を徹底するよう要請しました。

単に「下請法」とよく呼ばれますが、下請代金の支払い遅延などを公正取引委員会が関与して防ぐのがこの法律です。
「親事業者」(あとで説明します)に対して、下請代金の支払遅延またはこれに準ずる、正当な理由のない受領拒否、代金減額、返品、買いたたき、購入強制などを禁止しています。
また、当然禁止ではないものの、有償支給の原材料などの早期決済、長期手形など割引困難な手形の交付、経済上の利益の提供要請、給付内容の変更・やり直しは、下請事業者の利益を不当に害するような場合に禁止されています。
公取委は親事業者にこれらの違反行為があると認めた場合に、親事業者に対して、違反行為の差止めや原状回復措置、再発防止措置などの必要な措置をとるべきことを勧告します。その違反に対して直接の法的ペナルティはありませんが、勧告は公取委のホームページなどで公表されますので、実際はその勧告に従わざるを得ません。なお、契約書などの書面の交付、作成保存など一定の義務付けについては50万円以下の罰金が科されます。
そのほか下請代金の支払期日を納品日から60日以内とすべきこと(これに違反した場合は60日とみなす)も重要です。

さて、これらのルールが適用されるのが「親事業者」と「下請事業者」間の「製造委託等」の取引においてです。この適用範囲の定め方が複雑なので、基本的なことを理解しておく必要があります。

そもそも適用を受ける取引の種類は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託(総称して「製造委託等」)のいずれも「委託」取引に限られます。製造等においては、品質、形状、規格、性能等を「親事業者」から指定して製造等を依頼していれば、委託に当たります。逆に、受注する側のカタログ記載の商品などの取引であれば、発注する側からの指定がないので委託には当たらないということになります。

また、下請法はそもそも独占禁止法上の「取引上の地位の不当利用」(法2条9号5号)を防止するため、独禁法の補助的な法律として制定されたものです。したがって、「優越的地位の濫用」にいう「優越的地位」を客観的な資本金(または出資の総額。以下、資本金等とします)の格差によって決めています。つまり、一定の資本金等の格差があれば、優越的地位にあたると考えられるということです。
したがって、一定の資本金等の格差がある取引当事者間の「製造委託等」に下請法が適用されます。
すなわち、
1)「資本金等の額が3億円を超える法人」たる事業者が、「個人」または「資本金等の額が3億円以下の法人」たる事業者に対し、「製造委託等」をする場合。このとき前者が親事業者、後者が下請事業者。
2)「資本金等の額が1000万円を超え3億円以下の法人」たる事業者が、「個人」または「資本金等の額が1000万円以下の法人」たる事業者に対し、「製造委託等」をする場合。このとき前者が親事業者、後者が下請事業者。
というのが基本です。
ただし、製造委託等で、情報成果物作成委託と役務提供委託のうち、プログラム、運送、物品の倉庫における保管、情報処理以外の委託については、特別に次の適用範囲となります。
3)「資本金等の額が5000万円を超える法人」たる事業者が、「個人」または「資本金等の額が5000万円以下の法人」たる事業者に対し、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」をする場合。このとき前者が親事業者、後者が下請事業者。
4)「資本金等の額が1000万円を超え5000万円以下の法人」たる事業者が、「個人」または「資本金等の額が1000万円以下の法人」たる事業者に対し、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」をする場合。このとき前者が親事業者、後者が下請事業者。

このような親事業者、下請事業者間の製造委託等の取引が下請法の適用を受け、下請代金の支払遅延等が(行政上の理由から)禁止され、公取委の勧告(および公表)の対象となるということです。