下請代金の支払手段

<ポイント>
◆手形のサイトは従前より120日以内又は90日以内という通達があった
◆今般の通達で下請代金の支払は「できるだけ現金によるもの」とされた
◆手形を交付する場合も「60日以内とするよう努めること」が要請される

下請法は、資本金の区分によって決まる親事業者と下請事業者との関係において、下請代金の支払について一定の規制をしています。
すなわち、下請代金の支払期日は、給付を受けた日から60日以内で、かつ、できる限り短い期間内において、定めなければなりません。
また、親事業者は下請代金の支払について、支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難な手形を交付することによって、下請事業者の利益を不当に害してはなりません。
そのような割引困難な手形の禁止に関しては、従前「下請代金の支払手形のサイト短縮について」という通達が、公正取引委員会と中小企業庁から昭和41年に出されていました。
これによれば、手形サイトは、繊維業以外の業種については原則として120日以内、繊維業については原則として90日以内とし、さらに短縮するよう努力すること、とされていました。

手形支払に関する中小企業庁の調査では、次のような実態となっています(平成28年10月「手形支払について」中小企業庁。調査時期は平成25年または平成27年)
まず、手形取引は、1995年度末の87兆円をピークとして、2013年度末の25兆円まで、71%減少しています。
下請代金の受取については、「すべて現金」の割合が59.0%、他方「すべて手形」の割合が8.1%となっています。この「すべて現金」の割合は増加傾向にあります。
これに対して、中小企業にとって「最も望ましい取引先の決済手段」は、95.8%が現金とされています。手形が0.7%、一括決済方式が2.1%、電子記録債権が0.8%とされています。
代金支払いの決定において手形割引料相当分を加味しているかとの質問に対しては、大企業も中小企業も「加味していない」「加味されていない」が90%を超えています。
中小企業において、受取手形の割引料は1~2%未満の割合が高く、次に2~3%未満の割合が高くなっています。
中小企業において、手形割引を行うことはあるかとの質問に対して、あると答えたのが37.9%、そのうち手形割引を行う頻度は80%超が53.4%です。
手形サイトに関しては、依然として、60日超90日以内の割合が29.6%、90日超120日以内の割合が58.5%となっています(平成27年)。
中小企業の受取手形ののサイトの変更以降に関しては、60日以内では43.4%、90日以内では63.5%、120日以内では71.6%が短縮を希望しています。
他方で、手形サイトの現状維持を選択した理由としては、「同じ慣習で取引を続けているため」が66.4%を占めています。

このような実態のもと、公正取引委員会と中小企業庁は平成28年12月14日付で、「支払代金の支払手段について」との新たな通達を出しました。前記の通達は廃止されました。
新たな通達は次のとおりの要請を関係事業者団体にしています。

1 下請代金の支払は、できるだけ現金によるものとすること。
2 手形等により下請代金を支払う場合には、その現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担となることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。
3 下請代金の支払にか係る手形等のサイトについては、繊維業90日以内、その他の業種120日以内とすることは当然として、段階的に短縮に努めることとし、将来的には60日以内とするように努めること。
ここで「手形等」とは、手形、一括決済方式及び電子記録債権を指しています。

現金での支払を原則とする一方、「繊維業90日以内、その他の業種120日以内」という数字は残されたものの、「将来的には60日以内とするよう努めること」が要請されています。
とりわけ中小企業以外の親事業者から率先して実施することが求められています。90日以内または120日以内を超える手形は、「割引困難な手形の禁止」として、公取委等の指導を受けることが想定されると共に、今後の流れとして、手形を交付する場合も、具体的に「60日以内」とすることが慣習となってくる可能性もあります。