ビザと滞在許可
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はじめに
数年前、シンドラーのリストというナチスドイツからユダヤ人を救った実業家を主人公をした映画が大ヒットし、それに触発されて日本人にも人道的見地からユダヤ人を救った杉原千畝という外交官がいたことが紹介されるようになりました。この紹介の際には「命のビザ」というフレーズが使われることが多いのですが、ビザとは何かということになると、必ずしも、十分に理解されていないのではないかと思いますので、その点とビザと似て非なる滞在許可を中心に、日本人がビジネス、留学等で入国する機会の最も多いアメリカのビザの種類、永住権について述べてみたいと思います。

1 ビザとは何か
ビザとは、通常、入国査証と訳されており、パスポートのページに入国したい国の領事館でスタンプ等を押してもらっったり、特別な書類をもらって取得します。これは、入国を許可したり、滞在を許可するという証明書ではなく、入国するための「推薦状」にすぎません。したがって、入国審査の際に、審査官が入国を拒否するということは起こりうることになります。ただ、入国事務をスムーズにするための推薦状ですから、通常は入国を拒否されることはなく、その意味では、ビザを取得すれば入国を許可されたも同然ということにはなります。日本の出入国管理及び難民認定法(入管法)第6条においても「本邦に上陸しようとする外国人は、有効な旅券で日本国領事官等の査証を受けたものを所持しなければならない。」とされています。ビザは、その入国理由(在留資格)によって種類がわけられており、アメリカでの種類の一部は後に述べます。
ただし、日本人がアメリカやヨーロッパを短期間の観光で訪れる際には、ビザは必要ありません。これは、条約等によって、一定の場合(帰国の航空券を持っている等)にはビザを不要とすることにしているからです。日本人がアメリカを観光目的で訪れる際にビザが不要となったのはわずか10数年前のことです。日本の入管法6条にも、先の文言に続いて「ただし、国際約束若しくは日本国政府が外国政府に対して行つた通告により日本国領事官等の査証を必要としないこととされている外国人の旅券・・・(中略)・・・には、日本国領事官等の査証を要しない。」となっています。なお、韓国とアメリカの間には同様の条約はまだ締結されておらず、韓国国籍を有する人が渡米しようとする際には、観光目的であってもビザを取得しなければなりません(ビザがなければアメリカ行きの飛行機にも乗せてもらえないということです。)。
このように、外国に入国しようとすれば、原則としてビザが必要であり、例外的に不要な場合があるということになります。

2 滞在許可とは何か
無事に入国できるとしても、外国で滞在するためには、その滞在期間を決めた滞在許可が必要となります。アメリカに行ったことのある人は、観光目的でも、緑色のカード(I-94という名前のフォームです。)を渡されことがあるはずです。このカードにより認められた期間が滞在許可期間であり、これを過ぎて滞在すればオーバーステイということになります。日本の入管法2条の2第3項においても、「第1項の外国人が在留することのできる期間(以下「在留期間」という。)は、各在留資格について、法務省令で定める。」と規定されており、例えば短期滞在の場合には90日もしくは15日となっています。なお、日本には物議をかもしている外国人登録制度というのがありますが、これは、日本に入国後90日以内に居所の市町村役場で外国人登録をしなければならないというもので、外交官等を除いた全ての外国人に要求されていますが、90日以内に出国すれば外国人登録は不要とされています。

3 アメリカのビザ・在留資格
日本人がアメリカを訪れる目的は、観光を除くとビジネスか留学かだと思います。アメリカで働くことができるビザは12種類ありますが、一般の日本人と関わりが深いのは、Bビザ(短期商用)、Eビザ(駐在員、投資家)、Hビザ(一時的労働、研修)、Lビザ(企業内転勤)です。日本の入管法も、投資・経営、企業内転勤、短期滞在(この中には短期商用が含まれます。)の滞在資格を規定しています。
Bビザは特に説明は不要だと思います。Hビザは農業、漁業従事者やホテルマンの研修等があてはまります。EビザとLビザとは共に日本の親会社からアメリカの子会社へ転勤する場合に使われ、この二つはよく似ていますが、Eビザは親子会社の間に一定量以上の貿易高が必要とされるのに対して、Lビザはこれが必要ないという違いがあります。また、Eビザは領事館に申請しますが、Lビザは、まず、アメリカ移民局に申請しなければなりません。
留学生のビザとしては、最も一般的なFビザ(学術的プログラム)、Mビザ(職業訓練的プログラム)、Jビザ(交換留学生)があります。そして、学校を卒業した後、専門的な知識を有していれば、1年間の訓練期間、就労許可を得られることがあります。

4 アメリカ永住権の取得
アメリカの永住権の取得(よくグリーンカードの取得と言われるものです。)するには、5つの方法があります。その中で一般の日本人に可能と考えられるものとしては、アメリカへ多額の投資をして永住権の申請をする方法、経営責任者としてアメリカに派遣された者が永住権の申請をする方法があります。前者は50万ドルから100万ドルの投資が必要とされていますが、この場合の投資とは現地で従業員を雇う等の現実の事業をすること、もしくは経済的困窮地域への投資資金の提供が必要です。後者は経営責任者としてE、L、Hビザを取得して一定年月滞在後に申請するもので、前者に比べて安く取得できると言えるでしょう。なお、永住権を取得した後は、1年の半分はアメリカで過ごさないと永住権を取り消されてしまう可能性があります。