ゴルフ場に対する預託金返還請求について(その1)~裁判例をふまえて

<ポイント>
◆預託金返還に関する据置期間の延長のためには、理事会決議だけでは足りず、会員の個別的な承諾を要する
◆事業譲渡、会社分割によってゴルフ事業を承継した会社にも預託金返還義務が承継されるとした例など

1 ゴルフは、魅力的なスター選手が輩出されているように、日本でも広く認知されたスポーツといえます。他方で、国内のゴルフ人口は、統計的に特に若い世代を中心として減少しているという報告も見ます。
2 ゴルフ場の開発には、1ホール2億円という話も聞いたことがありますが、数十億円の建設費用がかかるプロジェクトでした。こうした開発費用の多くは金融機関からの借り入れと会員から集めた預託金で賄われているのが一般的です。
しかし、ゴルフ場は利益率が低く税引き後利益が数千万円を超えるゴルフ場は日本でも数少ないと聞いたことがあります。こうした利益率の低さからも、利息を返済しつつ、預託金返還のための原資を確保することは相当な困難があります。また、ゴルフだけに限ったことではないでしょうが、少子高齢化の影響により競技者人口が減ってしまってはさらに利益を上げることが難しくなります。
3 いわゆるバブル経済といわれた時期には、ゴルフ会員権を保有していることは一種のステータスとみられる面もあり、売買価格も高額化していましたので会員権の売却により預託金を回収することも考えられました。
しかし、バブル経済の崩壊に起因して会員権価格が下落し、預託金として預けた金額を回収することは難しくなりました。むしろ、譲渡価格よりも名義変更料の方が高いのではないかというケースすら散見されます。こうした状況では、会員としては、毎年の年会費の負担もあるため、むしろ退会して預託金返還請求せざるを得なくなるケースが増加しました。
4 ゴルフ場も資金がなければ預託金を返還することができません。事業継続のためには、会員からの預託金返還請求を回避する方策を検討します。一時期、ゴルフ場の民事再生手続が新聞紙面をにぎわしておりましたが、法的整理件数は平成14年がピークともいわれています。
他方で、ゴルフ場側からは、法的倒産手続の選択以前に、会則の定めに基づき理事会で償還期限を延長する決議を行い、返還請求に対抗する措置もとられていました。この決議による延長を認めた判決も数件あります(東京地方裁判所平成11年1月13日判決、同地裁平成14年11月7日判決など)。しかし、仄聞するところでは、これら判決については、東京高裁でゴルフ場側が預託金を返還することで和解し、あるいはゴルフ場側の逆転敗訴となったということです。
5 実は、こうした地裁判決以前に最高裁判所昭和61年9月11日判決がありました。据置期間の延長のためには、理事会決議だけでは足りず、会員の個別的な承諾を要するとするものです。この最高裁判決と同じ判断をしたものに東京地方裁判所平成19年5月10日判決などがあります。前項で紹介した理事会決議を有効した地裁判決によりやや混乱しましたが、この問題は決着がついていたと言って良いと考えます。
現在でもゴルフ場から、会員からの預託金返還請求に対して理事会による据置期間延長の決議は有効と主張する例があるようです。私見ですが、こうした主張は、返還義務が否定できないことを理解しつつもひとまず主張してみるという単なる時間稼ぎとして利用されているように見受けられます。
6 理事会決議による据置期間の延長以外にも、ゴルフ場の要請を実現しようと様々な手法が考案されています。ゴルフ場からすると、民事再生を含め法的倒産手続はイメージを低下させるなどマイナス要因がありますので、できれば避けたい手法なのでしょう。しかし、望ましい成果は得られていないといって良さそうです(事業譲渡につき最高裁判所平成16年2月20日判決、会社分割につき最高裁判所平成20年6月10日判決。いずれも預託金返還義務が肯定されています。)。
会員の立場からすると、預託金返還義務が判決で認められたとしても会社が民事再生手続を採ってしまうと、預託金の全額回収は不可能となりますので、こうしたことも視野にいれた対応を検討せざるを得ない状況も考えられます。
預託金に関する問題は、一時期と比較して数は減りつつも紛争となる事案がまだ残されているのかもしれません。
7 私もゴルフをプレーしますが、なかなか上達せず下手の横好きといったところです。 ただ、ゴルフは、社交の場として素晴らしい機会を提供してくれるものと思います。こうした預託金を巡るいわば周辺的な問題が、ゴルフという素晴らしいスポーツに悪影響を及ぼさないように願っています。