ゴルフ場に対する預託金返還請求について(その2)

<ポイント>
◆会員の預託金返還請求権と消滅時効
◆消滅時効を成立させないための対策

1 ゴルフ場の預託金返還請求については、以前原稿を書きましたが(「ゴルフ場に対する預託金返還請求について~裁判例をふまえて」2020年10月1日掲載 ご参照)、今回はその続きです。
2 会員が主張しなければならない事項
会員が預託金の返還を請求するために主張しなければならない事実として以下のものがあります。
(1)預託金会員制ゴルフクラブ会員契約の成立
(2)会員が前(1)の契約に基づきゴルフ場事業者に金員を預託したこと
(3)預託金据置期間の満了
(4)会員がゴルフクラブ退会の申出をしたこと
これら事実は、後の5項で述べる書類によって確認することになります。
3 ゴルフ場事業者の対応(消滅時効の主張について)
会員からの預託金返還請求に対して、理事会により据置期間の延長決議をするなど、ゴルフ場事業者の対応策もいくつかあります。
そのうちの一つが消滅時効の援用です。
預託金返還請求権の消滅時効は退会の申出日から進行するとされています(東京高判平成3年2月13日判決)。時効が完成する期間は、状況によりますがこの申出日から10年または5年となります。
なかには会員が退会の申し入れをし、預託金の返還を請求したにもかかわらず、経営状況が厳しい等の理由から支払いを待ってほしいという回答を繰り返す事業者もいます。こうした回答を口頭だけで行うような事業者は消滅時効期間の経過を待っているのではないかと疑われても仕方がありません。
口頭で繰り返されるだけでは、会員はゴルフ場事業者による債務の「承認」という時効中断理由の証明が難しくなります。言った、言わないの議論に持ち込まれてしまいます。証明ができなければ、裁判所から、消滅時効期間の経過により預託金返還請求権が消滅した、事業者は会員に預託金を返還しなくて良い、と判断されることになってしまうのです。
10年と聞くと長く感じますが、預託金の返還を実現するためには最終的に訴訟提起せざるを得ないため、弁護士費用の負担を考え躊躇してしまうのは無理もありません。ゴルフ場事業者からの返金の知らせを待つうちにいつの間にか10年以上経過してしまい、最終的に消滅時効を援用されてしまう会員も意外と多くいるのではないかと思います。
4 会員のとれる対策
こうした事業者による消滅時効の援用は不道徳な面もありますが、法律的に認められている防御方法の一つとも言えます。会員としては、こうした援用を許さないために、例えば以下のような対策をとることが考えられます。
(1)ゴルフ場事業者(預託金会員証書を発行している会社、またはその会社から事業を譲り受けた会社)に書面で支払い義務があることを認めてもらう。
(2)電話録音をして事業者からの「支払う」旨の発言や「支払い猶予」を求める発言を証拠として残しておくなど。
事案に応じて検討しなければなりませんが、特に長期間にわたって返金が受けられていない事案については、弁護士に相談するのが望ましいです。
5 弁護士に相談する際には、以下の書類を持参するとスムーズに話が進みますのでご参考までに。
(1)クラブ預託金会員証書(ゴルフ場によって名称は様々ですが、預託金の金額の記載されている会員証のことです。)。
(2)クラブ規則・細則。
(3)会員による年会費等の支払い状況、滞納状況が分かるもの。
(4)その他ゴルフ場からの連絡書類。
(5)ゴルフ場との事前交渉をしていればその経緯に関する時系列をまとめたもの。