カルテルに対する独禁法上のペナルティーなど

<ポイント>
◆排除措置命令と課徴金納付命令が2本柱
◆課徴金納付命令では自主申告による減免がある

自動車内部の配線用電線(ワイヤーハーネス)などをめぐり、10年間価格カルテルが行われたとして、米国司法省が1月30日、矢崎総業とデンソーに対し、反トラスト法(独占禁止法違反)で合計5億4800万ドル(約419億円)の罰金支払いを命じました。
両社は支払いに応じるとのことです。さらには司法取引に応じた矢崎総業の日本人幹部4人が最長2年の禁固刑に同意したと報道されています。2社への罰金額は反トラスト法違反として過去最高、2年の禁固刑も外国人への同法違反の禁固刑としては最長とのことです(2月7日付け日本経済新聞朝刊社説より)。

矢崎総業は日本国内においても、同じく自動車用ワイヤーハーネスの販売に関し、トヨタ自動車など自動車メーカーの見積り合わせ(コンペ)の参加業者として、住友電工などと共に1月19日、公取委から96億円の課徴金納付命令を受けました。この金額も1社当たりで過去最高額とのことです。違反行為について排除措置命令がなされています。

公正取引委員会が違反企業自らの申告、一般人からの報告などをきっかけにカルテルの調査を開始し、立ち入り検査等を経て、カルテルの事実を認定すれば、公取委は排除措置命令と課徴金納付命令を違反企業に課すことになります。入札談合も「不当な取引制限」として同様です。

排除措置命令は、カルテルを排除するために必要な措置です。立ち入り調査などをきっかけに既にカルテルを止めていたとしても、過去5年以内のものであれば、公取委は命令を出すことができます。
矢崎総業の今回の件であれば、そのカルテルを既に止めていること、今後同様のカルテルを行わないことを取締役会を決議したうえ、他のカルテル当事会社、自動車メーカー(クライアント)に通知し、自社の従業員にも周知徹底しなければならず、さらに独禁法遵守についての行動指針の社内での周知徹底、定期的な研修、監査をしなければならない、などのことが命じられています。
もし排除措置命令に不服があれば、公取委への審判請求をすることになります。審判の結果(審決)、請求が棄却されるか(命令が維持される)、命令が取消・変更されるかということになります(違法宣言にとどまる場合あり)。審決に不服があれば、東京高等裁判所で審決取消訴訟です。

もう一つの柱が課徴金納付命令です。カルテルによって不当に得た利益をはく奪するのが主な目的ですが、違反行為の抑止にもなります。
カルテルを実行していた期間中(最長3年)の売上額の原則10%が課徴金額となります(小売業なら3%、卸売業なら2%)。中小企業の場合は、それぞれ半分弱ないし半分の割合です。
注目すべきは、カルテルから早期にかつ短期で離脱した企業は減額され、再度の違反や主導的役割の場合は増額されるということです。
公取委の調査開始日の1か月前までにカルテルを止め、かつカルテルを実行していた期間も2年未満であれば、課徴金額は2割減となります。
他方、調査開始日からさかのぼって過去10年以内に課徴金納付命令を受けたことがあれば、5割増しとなります。上記1月19日付けの課徴金納付命令においても、再度の違反者として5割増しとなった企業があります。
単独あるいは共同でも他社にカルテルを要求、依頼、唆し(そそのかし)をするなど主導的な役割をした企業も5割増しです。再度の違反かつ主導的役割の場合は10割増となります。つまり原則事例でいえば、売上額の20%が課徴金額となります。

他方、カルテルの摘発を促進させるため、違反企業が自ら、つまり公取委の調査開始前に申告すれば5社まで課徴金が減免される制度が採られています(調査開始後でも、新たな事実を申告すれば3社までが30%免除されます)。
上記の課徴金納付命令では、古河電気はカルテル参加企業でありながら、調査開始前に最初の自主申告をしたため、課徴金全額免除の恩恵を受けています。
住友電工は調査開始前の2番目とみられ、50%免除です(その結果として合計21億円の課徴金)。
矢崎総業やフジクラは調査開始前の3番目だったか、調査開始後でも新たな事実を申告したかということになります(そうだとしても矢崎総業は96億円。フジクラが11億円)。
調査開始前だと順位が重要なので、申告はファックス(書式あり)によって行われます。「FAXの差」で巨額の損得が起こりえます。申請前の企業名を明かさない事前相談も受け付けられています。調査開始後でもまだカルテルをやっていれば、減額の恩恵は受けられません。なお、不服があれば、公取委に審判請求できる点、排除措置命令と同様です。

なお取締役がカルテルの存在を知らなかった場合でも、必要な内部統制システムが整備されていなかったなどの理由で取締役が株主代表訴訟で責任を問われることもありえます。
住友電工は2010年にも光ファイバーケーブルのカルテルに加わったとして67億円の課徴金納付命令を受けています。そこで同社の株主が同年12月、取締役を被告として株主代表訴訟を提訴し、67億円の損害賠償を請求していますが、その理由として、減免制度の自主申告をしなかったことも理由として挙げているようです。

刑事罰についてですが、カルテルなど不当な取引制限の罪は実際にカルテル行為を行った者については5年以下の懲役または500万円以下の罰金です。代表者や従業員がカルテルを行った場合、法人についても罰金刑が課されますが、その最高額は5億円です。