なくなった株券の再発行制度が変わりました
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【公示催告・除権判決制度】
私たちは、商業活動を行う上においても、また、日常生活においても、有価証券を利用しています。
有価証券の中で代表的なものは、株券と手形・小切手です。
これらの有価証券の特徴の一つは、権利の行使(たとえば、小切手に記載されている金額を銀行で支払ってもらうこと)の際にはその有価証券を所持していなければならないことです。
そのため、有価証券をなくすと上記のような権利行使ができず、非常に困ったことになります。そこで、公示催告及び除権判決という制度が定められています。
これは、裁判所が、有価証券を火事や盗難でなくしたとの申立てがあった場合に、その有価証券の所持人がいれば6ヶ月内に申し出るように官報に公告し、その期間に有価証券を所持している者が現れなければ有価証券を失効させる判決をするというものです。証券をなくした者は、この判決を得て、新たな有価証券の発行をしてもらって権利行使をすることになります。
なお、株券については、保管振替決済制度というものがあり、株券を証券保管振替機構に預けていれば株券を所持していなくても権利行使ができますが、これは株券をなくしているのではありません。

【従来の制度の問題点】
しかしながら、株券における公示催告及び除権判決という制度には問題点がありました。
その主たるものは、(1)裁判手続きであり、一般に利用しがたく、費用がかかる、(2)1年近くの時間がかかる、(3)除権判決後に善意無重大過失によって株券を取得しても権利者になれない、というものでした。
このうち(3)については少しわかりにくいかも知れませんが、これにあてはまる事件を当事務所で扱ったことがあります。それは、株券を紛失したと裁判所で嘘をついて除権判決を得た者が、旧株券(紛失したと嘘をついた株券)と新株券(除権判決がなされたために会社が新たに発行した株券)を別々の者に譲渡して、各譲受人が自分こそが正当な権利者であると主張して裁判したケースです。
この事件では、嘘に乗せられて除権判決が行われているのですから、当然に旧株券の持ち主が正当な権利者であると認められたかというとそうではなく、嘘に乗せられた除権判決であっても、それが取り消されない以上、旧株券は失効しているとして、新株券の持ち主が正当な権利者であるとされたのです。

【新制度】
そこで、有価証券のうち、株券についてのみ公示催告、除権判決という制度を廃止して平成15年4月1日から新たな制度がスタートしました。
新制度では、上記(3)の改善についても話し合われたようですが、結局、(1)の改善のみにとどまりました。
新制度では、会社に株券喪失登録簿の備置を義務付けて、株券を喪失した者が会社に株券喪失登録の申請を行い(その際に火事で焼失した場合には焼失届証明書、盗難に遭った場合には盗難証明書を添付します。)、1年間の登録期間の満了日に株券は無効となり、会社は株主名簿に株券無効の記載をします。株券無効となる日をもって、株券を喪失した人が株主名簿の名義人でなければその人に名義書換がなされたものとみなされます(株主名簿の名義人であればそのままです。)。
株券喪失登録された株券を所持している人は、株主名簿の名義人であれば会社からの通知により、名義人でなければ名義書換の申し出の際に株券喪失登録がされていることがわかりますから、株券喪失登録が虚偽であると主張する場合には、登録異議の申請をすることができます。ただし、これは登録期間内(株券喪失登録後1年間)でなければなりません。
この異議の申請がされれば、会社は申請後2週間を経過した日に株券喪失登録を抹消します。
株券喪失登録について申請者と株券の所持人に争いが生じた場合、最終的には裁判所で解決がはかられることになりますが、株券が別の第三者に移転して新たな権利者が生じることを防止するために上記2週間の間に裁判所から株券を譲渡してはならないという処分禁止の仮処分命令をしてもらわなければならいことになります。

このように、新制度では、争いが生じなければ裁判所への申立ては必要がなくなりましたが、依然として、1年間かかるということと、株券が無効になった後にその株券の譲渡を受けた者はいかなる場合でも保護されないという問題は残ったままです。
結局、株券を譲り受ける場合には、株券喪失登録がなされていないかどうかを確認することが唯一の自衛手段ということになるでしょう。