「賞与を在籍者のみに支給する」旨の規定の有効性
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<ポイント>
◆就業規則等の一般的な定めだけでは具体的な賞与請求権は発生しない
◆「賞与は支給日に在職したもののみに支払う」と規定することは可能
◆整理解雇の場合や年俸制の場合は有効性について慎重な判断が必要

賞与など臨時の賃金について定める場合には労働基準法により就業規則にその支払いに関する規定をおく必要があります。
ただし、通常、就業規則上では一般的な規定をおくにとどまるため、具体的な賞与請求権は就業規則の定めによってただちに発生するものではなく、使用者の決定や労使の合意、慣行等によって具体的な算定基準や算定方法が定められ、算定に成績査定が必要な場合は必要な成績査定もなされてはじめて具体的な請求権が発生します。

ところで、賞与支給規程により、賞与を支給日時点での在職者のみに支給することは可能でしょうか。
支給要件の内容は合理的でなければならないため裁判上も何度か争われてきました。
これについては、裁判例からみて有効であると解されています。
その理由は、賞与は賃金の性質をもつとはいえ、毎月の勤務に対応して毎月支給される賃金とは異なり、賃金の後払い的性質に加えて、従業員の地位を有すること・連続して勤務していること・将来の勤務に対する期待・報償的な意味合いなどが混在しているという意味で包括的な給付たる性質をもつからだと、いわれています。
例えば、ある裁判例では、「賞与は勤務時間で把握される勤務に対する直接的な対価ではなく、従業員が一定期間勤務したことに対して、その勤務成績に応じて支給される本来の給付とは別の包括的対価であって、一般にその金額はあらかじめ確定していないものである。従って労務提供があれば使用者からその対価として必ず支払われる雇用契約上の有償契約たる雇用契約における労働の対価として当然に予定されている債務である賃金とは異なり、賞与を支給するか否か、支給するとしていかなる条件のもとで支払われるかはすべて当事者間の約定や賞与規程等によって定まるというべきである」ことを根拠に、賞与を在籍者のみに支払うという定めをおくことも会社側の裁量の範囲内であるとして、有効としました。
最高裁でも賞与期間中勤務しながら支給日前に自己都合退職した従業員からの賞与請求について、会社と組合との間に労使協定が存在することを前提に、在籍者のみに賞与を支給することは合理性を有するとして、賞与請求権を否定し、賞与の支給を在籍者のみに限ることを有効としました。
なお、賞与の支給日が予定より遅れた場合には、在職者のみに対して賞与を支給する規定があることを理由として賞与の支払いを拒むことができないとする判例があります。

また、会社側の都合による整理解雇の場合や給与を年俸制に改定した場合などにも一律にこの規定を適用することができるかについては、争いがあり、結論がはっきりしていない状態です。
整理解雇の場合、支給日前に従業員としての地位を失うことが予想できないことから、この規定の適用を認めるべきでないとする判例があります。
また、年俸制の場合には、その年俸制度のなかで賞与がどのような位置づけなのかによって結論は異なると考えられます。
一般に、賞与が賃金の分割払い方法である場合や、成果・業績への報酬と見られる場合には、賞与を在籍者のみに支給するということの合理性は低くなり無効とみられる場合が多いでしょうし、逆に、将来の勤務に対する期待という性質が強い場合には在籍者のみに支給することの合理性が強まると考えられます。