「コーポレート・ガバナンスの実践」について

<ポイント>
◆経済産業省の研究会が「コーポレート・ガバナンスの実践」例を公表
◆取締役会の監督機能の強化を図ることで、中長期的価値の向上を目指す
◆コーポレート・ガバナンスは形式だけでなく、取り組みの充実が必要

経済産業省が設けた「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」(座長:神田秀樹東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、7月24日、報告書「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」を公表しました。

東芝の不適切会計処理が大問題となっている最中の公表であり、この問題と関連付けた報道もなされています。
報告書は取締役会の監督機能や、社外取締役の役割・機能について述べていることから、報道だけ読めば、今般の東芝のような不祥事を社外取締役の監督によって、どうやって防ぐかの指針が示されているような印象を受けます。

ただ、この報告書はその目的を不祥事防止に限って作られたものではありません。報告書は基本的な考え方についておおむね次のように述べます。

グローバル競争時代のなか、我が国企業の中長期的な企業価値の向上のためには、経営者に対して適切なインセンティブが付与されなければならない。
そのためには、取締役会が有効に機能していることが必要であるが、これまで我が国の取締役会は、基本的な経営戦略や経営計画を決定することに加え、業務執行の具体的な意思決定(意思決定機能)を果たす場合が多かった。
もっとも、世界的な潮流での取締役会は、むしろ指名や報酬の決定を通じて業務執行を評価することによる監督(監督機能)を果たすことが想定されており、我が国の取締役会においても、その機能を強化することが求められている。
取締役会は、企業の基本的な経営戦略や経営計画を踏まえて、経営者が適切な努力を怠ったときは経営者を交代させるなどの対応をしなければならない反面、経営者が適切に努力したときは、その努力を積極的に評価し、コントロールできない外的要因に基づく一時的・情緒的な批判から経営者を保護することも必要である。
これにより、中長期的な企業価値の向上に向けた経営者の果断な意思決定を後押しする。
監督機能を担いうる企業経験者が社外取締役となって、その役割・機能を活用して、取締役会の監督機能の強化を図る。
コーポレート・ガバナンスは、形式的に体制を整えるだけでなく、各企業においてその取り組みを充実させ、活かすことが重要である。

報告書はこのような観点に立って、取締役会実務(ボードプラクティス)の取組例を豊富に掲げ、各企業の検討に役立つようにしています。
ここでの基本的な視点も、取締役会の監督機能と意思決定機能をどのようなバランスで実現しようと考えるかが重要であるとしています。
取締役会で議論する事項(付議事項)の設定については、「取締役会が監督機能へ特化することや、執行のスピードアップのために、社外取締役の導入等をきっかけに、具体的な業務の意思決定に関する事項は付議基準を引き上げ、取締役会では経営戦略や経営計画に関する事項を主として議論する方向で付議基準を見直し又は見直しを検討している会社が多数」としつつ、「社外取締役の客観的な意見を踏まえて、取締役会において意思決定をした方が良いとの考え方等から、業務上の意思決定に関する事項も幅広く上程している会社もある」としています。
つまり、取締役会は具体的な意思決定を行うよりも、執行権限は可能な限り経営会議などに権限委譲しつつ(指名委員会等設置会社の場合は当然に)、業務執行への監督機能を強化する。
それと同時に、社外取締役の外部の目線、豊富な知見を積極的に活かし、経営戦略や計画など大局的な議論は活発に行い、透明性、客観性を高め、企業の中長期的な価値を高めることを目指す取り組みが多くなされています。
社内では取締役会の前に既に議論、検討をしているので、取締役会では、社外取締役からの指摘やそれを踏まえた議論が中心になっているとも報告されています。
そのほか、監査役の役割、監査役と社外取締役の連携から、社外取締役の活躍、指名・報酬委員会等の社外取締役を構成員とする仕組みの活用状況など具体的な取組例が紹介されています。
取締役会の開催頻度、資料の事前配布等、社外取締役への事前説明を行うか否かなど社外役員への情報入手、支援体制も具体例が報告されており、参考になります。
報告書はほかにも役員報酬の活用実態についても触れています。

このように報告書は、取締役会、社外取締役の監督機能を高めることで、経営者の合理的な意思決定を促し、中長期的な企業価値の向上を実現することを目指すものです。
ただ、この報告書は、どちらかというと内部統制システムが有効に機能している前提での、社外取締役の経営者への監督機能の充実をはかる取り組みを促しているように読めます。
東芝の場合、第三者委員会によれば、経営トップの関与含む組織的な関与があったとされており、監査委員としての社外取締役に十分に伝わっておらず、内部統制システムが十分に機能していなかったとされています。
そのような不祥事をどうやって防ぐか、内部統制や監査の問題含め、より直接的で実効的な議論がなされる必要があると思われます。