逸失利益の定期金賠償を認めた最高裁判例 ―令和2年7月9日判決―

 喜田 純章

2020年08月15日

<ポイント>
◆通常は一時金による逸失利益賠償で定期金賠償が認められた
◆今後は定期金賠償を認める相当性について事例の積み重ねが待たれる

交通事故による損害賠償は多くは不法行為に基づくものとされ、一時金(一回で損害賠償額全部を払う)で支払えという判決が通常です。しかし、民法上要件は明確ではありませんが、定期金(例えば毎月末日に●円ずつ支払えなどの方法)による支払いを被害者が求めた場合に、それが認められることがありました。
これに関して、最近最高裁は、次のような事例で定期金賠償を認めました。

【事例】
 事故当時4歳だった男性が、交通事故により高次脳機能障害の後遺障害が残り、将来にわたり労働能力を全部喪失した。これについて、18歳になる月の翌月から67歳になる月までの間に取得すべき収入額を、毎月定期金により支払うことを求めた。

最高裁の理屈は簡単にいうと、(1)交通事故による損害賠償債務は事故の時に1個のものとして発生する。(2)後遺障害が残ったときの、将来得られるはずの失われた利益(逸失利益)の損害賠償債務も事故時に発生する。(3)逸失利益の損害は、本来は事故後相当な時間が経過してから逐次現実化するが、その額の算定は不確実・不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないので、算定の基礎となった後遺障害の程度や賃金水準等に大きな変動があった場合、一時金として裁判上認定された額と現実化した損害との間に大きな開きが出ることもある。(4)民法では不法行為の賠償を一時金でしなければならないとはなっておらず、民訴法では定期金賠償を前提とした規定(117条)もある。(5)よって、生じた損害について公平に分担させるという損害賠償制度の目的・理念に照らして相当な場合は、逸失利益について定期金賠償を認める。というものです。
そして、上記事例では高次脳機能障害により労働能力をすべて失ったということで、逸失利益は将来の長期間にわたり逐次現実化するものといえるということで、(5)の目的・理念に照らし相当といえるため、定期金賠償という被害者の希望がかなったということになります。

ただ、どのような場合に、どのような事情を考慮して定期金賠償が認められるかについて、(5)の目的・理念に照らし相当といえるかが問題ですが、これについては引き続き解釈に委ねられるとの裁判長裁判官の小池裕氏の補足意見があり、今後の事例の積み重ねが待たれるところです。
この点、請求される側としては、定期金で支払うことによる債権管理等の手間を理由にこれまで不相当であると争っていましたが、同じ補足意見の中でそのような事情を「考慮要素として重視することは相当ではないように思われる」とされています。
保険会社において、重大な後遺障害が長期にわたり存続するであろう事例を中心に、相当な影響が予想されます。