<ポイント>
◆一定の場合に、氏名・住所等を記載せずに申立てをすることが可能になります
◆氏名・住所を推知される事項についても秘匿をすることが可能になります
改正民事訴訟法は令和4年5月18日に成立し、同月25日に公布されました。前回の配信において池田弁護士が改正によるインターネットを利用した民事裁判について解説しましたが、今回は令和5年2月20日から施行される住所・氏名の秘匿制度について解説します。
従前、訴状には当事者や法定代理人の住所や氏名を訴状に記載しなければならず、秘密保護のための閲覧等制限(92条)の申立てをして決定を得たとしても、当事者以外の閲覧等を制限する効果しかないため、相手方当事者が閲覧等をすることにより申立人の住所・氏名を知ることを防ぐことは法律上できませんでした。
そのため、例えば性犯罪等の被害者が加害者に対して損害賠償を求める民事訴訟において、被害者が提出した訴状を受け取った加害者が被害者の氏名・住所を知ることになるため、被害者が訴えの提起をためらうということがあったと言われています。
そこで、改正民事訴訟法は氏名・住所等の秘匿制度を新設しました(133条以下)。
改正後は1.氏名、2.住所(居所等を含む)3.その他当該者を特定するに特定するに足りる事項(日弁連の研修資料によると本籍などがこれに当たるようです。)を当事者に知られることによって申立人又は法定代理人が「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合」には、裁判所はそれらを秘匿する旨の決定をすることができるようになりました(133条1項)。この決定において、裁判所は代替氏名、代替住所を同時に定めます(「A」などアルファベットを使って定めることを裁判所は考えているようです。)。
この決定があった場合には、秘匿事項の閲覧等ができるのは秘匿対象者に限られ、相手方は閲覧等をすることができません(133条の2第1項)
また、秘匿決定がされても、住所の近くの学校の名称や親戚の氏名などが記載されている場合には、秘匿事項が推知されてしまいます。そこで、秘匿事項を推知することができる事項についても秘匿決定があった場合における閲覧等制限(133条の2第2項)を申し立て、決定を得ることで訴訟記録の閲覧等を請求することができる者を秘匿対象者に限ることができます。
なお、氏名・住所の秘匿制度は家事事件手続法にも準用されているため、家事事件にも適用されます。
この制度が開始されることで、相手方に氏名・住所を知られることをおそれて訴訟提起をあきらめていた方々であってもより一層裁判所の手続を利用しやすくなると思われます。