株主総会における無断録画について
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<ポイント>
◆株主総会においては株主による動画撮影を禁止するのが通常
◆動画撮影のためのビデオカメラ持ち込みの可否について判断した裁判例が存在する
◆動画撮影を禁止する根拠は会社法315条にある

 

株主総会においては、「会場内での動画の撮影は禁止いたします。」といった注意書きがなされているのが通常です。この点、動画の撮影はいかなる理由で禁止できるのでしょうか。以下、関連する裁判例をご紹介します。

東京地裁平成20年6月5日決定(以下「本決定」という。)は、会社が(債権者)が、同社の株主(債務者)に対し、株主総会にビデオカメラ等を持ち込んではならないとする内容の仮処分を申し立てた事案(以下「本事案」といいます。)です。裁判所は、以下のように述べて、会社の申立てを認容しました。
「④債権者は、総会出席株主のプライバシー等に配慮して議場入口に張り紙をする等の方法で撮影が行われることを株主に告知した上で、株主総会の議事をビデオ撮影しており、当該議事運営が適正に行われたかどうかが訴訟等の場で争点とされた場合には、これを証拠化することが可能であること(他に、株主総会の議事運営等の適正を確保するための制度としては総会検査役の制度が法定されており、総株主の議決権の一〇〇分の一以上の議決権を有する株主が債権者の議事運営の適正を疑問視する等している場合には同制度の活用が可能である。同法三〇六条)」
「⑤株主総会において一部の株主によるビデオ等による撮影が行われると、(意識的に又は偶発的に)撮影対象とされた他の株主の発言等を萎縮させる危険性があること等の事実関係ないし影響が認められる。」
 
④は、会社(債権者)が株主総会の議事をビデオ撮影しており、後から議事が適切になされたかが問題になった場合には、会社のビデオがあれば証拠として十分であり、株主によるビデオ撮影は不要であることを指摘するものです。後半の括弧書きについては、会社がビデオ撮影しているかどうかに関わらず、株主側で適切に議事がなされるか不安であれば、総会検査役の制度を活用しうることを指摘するものです(総会検査役は、株主総会に実際に出席し、議事が適切に運営されているかの調査を行います)。

⑤は、ビデオ撮影が行われると、意識的か偶発的かを問わず、撮影される他の株主の発言を委縮させる危険性があるという、ビデオ撮影による不利益を指摘するものです。
 
裁判所は、以上のように述べたうえで、以下の結論を導いています。
「ビデオカメラやカメラで同総会における議事の状況を撮影する行為は、株主が有する議決権やその前提となる質疑討論を行う機会を保障するものとして必要不可欠なものでないばかりか、かえって他の株主が有する同様の権利等を侵害するものであるといえる。
そうすると、本件についても、株式会社である債権者は、本件株主総会の議事を適正かつ円滑に運営する権利(※会社法315条)を保全するため、株主である債務者らに対し、同人らが自ら議場に持ち込んだマイクやスピーカーを使用する行為及び同じく同人らが自ら議場に持ち込んだビデオカメラやカメラを用いて撮影する行為を排除する権利を有することの疎明があるものと解するのが相当である。」(※部分は筆者追記)

本決定は、あくまで本事案についての判断であり、本事案固有の事情についても考慮しています。本事案には、株主(債務者)が過去にも株主総会を妨害して、退場命令を受けたことあるという特殊な事実関係も存在します。しかしながら、上記で引用した裁判所の考え方については、本事案のみならず、広く、株主総会全般に妥当するといえそうです。
本決定を踏まえて、冒頭の質問を検討すると、動画の撮影を禁止する根拠は、株主総会の議事を適正かつ円滑に運営する権利(会社法315条)にあるといえます。