交通事故時の労災保険と自賠責保険

 喜田 純章

2020年04月01日

<ポイント>
◆労災交通事故で労災保険から支給されるものには慰謝料は含まれない
◆労災保険には費目拘束がある
◆自賠責保険との併給調整がある

会社の従業員の方で、通勤途上や業務中に交通事故の被害を受ける方も少なくありません。もし、加害者が任意保険に加入していない場合はどうするべきか。この場合は加害者の自賠責保険の利用だけでなく、労災保険の利用も視野に入れるべきです。今回は自賠責保険と労災保険の違いや関係について説明します。

業務中や通勤途中の交通事故でケガをして入通院をする必要が生じた場合、その治療費などは労災保険から支給されますが、慰謝料は対象外です。入通院の慰謝料額はそのケガの程度や治療期間・実日数で金額がおおよそ決まりますが、自賠責保険と異なり、労災保険では慰謝料は補償されないのです。その部分については別途、加害者の自賠責保険を利用することが必要となります。

また、労災保険の支給内容は、傷病の治療費が対象の「療養(補償)給付」や休業療養中の生活保障の「休業(補償)給付」、後遺障害が残った際の「障害(補償)給付」などいくつかの項目に分かれておりますが、例えば交通事故のけがで治療費が100万円かかり、その分が全額療養(補償)給付で補填されたが、自分の過失割合が30%の場合、支給されすぎの30万円はどうなるかという問題があります。このように認められるべき損害額を上回った額について、他の損害項目(慰謝料など)に割り振られることはありません。これを費目拘束といいます(最判昭和58.4.19民集37巻3号321頁)。これは自賠責保険にはないシステムであり、自賠責保険の場合は支給内容の項目によらず、支給額全体を人身損害の過失相殺後の全体額に充当していくことになります。

自賠責保険と労災保険の両方を用いることは可能ですが、同一の損害項目についていわば「両取り」のようなことはできません。つまり、自賠責保険には傷害であれば120万円までという上限額がありますが、先にそれを取得してしまうと、その後に支給されるべき労災保険からその自賠責からの支給分を控除されます。逆に労災保険の支給を先行させた場合、あとで労災保険(国)は自賠責保険へその限度額の範囲で求償することになり被害者はその金額分は自賠責からの支給は受けられず、両者間での調整が図られるのです。どちらを先行して用いるべきかは事故態様による過失割合にもかかわるので、ケースバイケースといえます。特に、自賠責の場合は被害者に重い過失割合があれば減額されるリスクがありますが、労災の場合はそのような過失相殺による減額は原則としてありません。

このように、自賠責保険と労災保険には重複する側面もあればそうではない側面もあります。どちらを先行して利用すべきかはケースによりけりとなります。