<ポイント>
◆内部通報制度を機能させることはハラスメント対策としても重要
◆トップのハラスメントに対する姿勢が最重要
◆組織全体で真摯な取組を積み重ねることが制度への信頼につながる
2025年3月31日、第三者委員会がフジテレビの番組の出演者と同社で勤務していた女性とのトラブル対応等(本事案といいます)について報告書を公表しました。
この第三者委員会の設置目的は、本事案に関する事実関係及びフジテレビの事後対応やグループガバナンスの有効性を客観的かつ独立した立場から調査・検証すること、調査結果を踏まえた原因分析及び再発防止に向けた提言を行うことでした。
この報告書は300頁近くの大部にわたるためその全体や詳細にふれることはできませんが、私がこの報告書を読んで特に印象に残ったことについてコメントしたいと思います。
印象に残ったのは、過去のセクシャルハラスメント事案への対応が甘く、ハラスメントの被害を受けても行為者に対して厳正な処分が講じられないばかりか、ハラスメントの被害を訴えた者が異動させられ、行為者は(のちに)取締役等の役職に就いており、それらのことから「諦め」が蔓延し、それに伴うコンプライアンス相談窓口への期待の低さが相談・通報の件数が少ない背景であると指摘されていたことです。
通常は、セクシャルハラスメント事案が発生した場合は、加害行為者を異動させるのが原則です。
また、加害行為者に対しては懲戒処分がなされるとともに、(もちろん事案の軽重にもよりますが)人事上の不利益が継続することが多いのです。
しかし、報告書を読んでいると、確かに過去の加害行為者に対する寛大すぎる事案が散見され、報告書が指摘するように被害者が会社に対して被害を訴えることが難しい土壌が形成されていたというのが真実であったと思われます。
従業員数が300人を超える企業においては、内部通報窓口(フジテレビにおける名称はコンプライアンス相談窓口)の設置は法的義務ですが、形式的に設置することで満足していては設置の効果は期待できません。
制度の運用の実態が個別の事案における被害者の救済に役立つものであることが必要なのはもちろんですが、制度の運用やその後の人事面での対応も含めて、ハラスメントは絶対に許さない、という企業の姿勢、トップの姿勢を示すことが最も重要かつ必要不可欠であると思います。
報告書では、このような姿勢が伝わらなかった(存在しなかった)結果、報復が怖い、騒ぎ立てると職場にいづらくなる、などの諦めが従業員の間で蔓延していたという実態があったと評価されています。
このような内容に接して、窓口を設置し、運用ルールを定めるだけではなく、実効性があって従業員から信用されるような運用を行うことが必要である、ということが企業のリスク管理という観点から非常に重要であるということを改めて強く感じました。
そのためには、企業として何をすればよいのでしょうか。
まず、企業のトップが、ハラスメントが企業に与える経営上のリスクや企業風土に与える悪影響を理解しその廃絶の重要性を認識し、その認識を社内にしっかりといきわたるように宣言することが必要だと思います。
そのうえで、通報制度の枠組みを利用しやすいものにし、実際の運用においても利用しやすくすることが重要だと思います。
また内部通報担当者の人員を充実させ、人望のある有能な人物を窓口担当にすることも必要だと思います。
さらに、社外の弁護士に通報窓口を委託することも有用です。弁護士だからといってかならずしも信頼されるわけではありませんが、社外の人間であり法の専門家であるということが通報者に安心感を与える場合も多いと思います。また、弁護士に依頼するという事実が会社の制度に対する力の入れ方を示すことにもなります。
もちろん、トップが窓口の担当者に対し、自分がコンプライアンス(ハラスメント対策を含む)を重要視していることをしっかり伝えることも大切です。
担当者は通報に真摯に対応し、制度への信頼をコツコツと積み上げることが必要です。
正直に言うと通報には私怨交じりのものがあったりして玉石混淆という面もあるのですが、担当者は、それに挫けることなく、たとえピント外れな通報であっても通報者に不利益を与えることなく、企業のコンプライアンスにとって有益な通報をキャッチし、不都合があれば是正してゆく姿勢を失わないことが非常に重要です。
報告書においては種々の再発防止のための提言が述べられています。
私が今回述べたのはそのごく一部についての意見ではありますが、フジテレビのこれからの信頼回復に向けての取り組みを見守りたいと思います。