執筆者:イスラム建築マニア
2022年09月15日

もう何年、いや何十年経つだろう。

友達の家に遊びに行った帰りに「これ、近くのお店のものなんだけど。」とお土産にどら焼きを持たせてもらった。
家に帰って食べるとこれが超うまい。一緒に食べた者も「これはおいしい!」と言って、あっという間に一箱食べきった。
残念なことに、その時どこのお店のものかちゃんと控えていなかった。

その後、あのときもらったのはどの店のものだろう。かなりおいしかったな。と気になったが、当時はまだパソコンやスマホ(携帯)が普及しておらず、検索するなんていう方法がなかった。
今さら本人に聞くほどでもないしと、その記憶は頭の片隅に追いやられほとんど忘れていた。

それから時が流れ、ネットにはあらゆる情報があふれる時代になった。
ふと、眠っていた記憶が目を覚まし、検索してみた。友人の家は住吉東。「住吉、どら焼き」っと。
おぉ、載っているぞ。住吉銘菓どころか、おいしいどら焼きのランキング上位に入っているではないか!
その店が「喜久寿」であることが何年もの時を経て判明した。当時、これはおいしいと感じた私の舌もまんざらではなかったようだ。

こうして長年分からず調べようもなく諦めていたものが、何年も放っているうちにネットに情報が蓄積され判明してしまったのだ。こういうことはよくある。
長生きはするものだ。パソコン、スマホのない時代を知っている昭和世代あるあるだ。

そんな情報のあふれる令和の時代になってもなお、なかなか分からないものがあった。
どこの美術館で見たのかも、誰の絵かも、どんな絵だったかも確かな記憶がなく、記憶にあるのは、夜に海の近くで焚き火をしている絵で、明暗の描写が凄いなと感動したということだけなのだ。海外旅行先だったので、それほど有名でない絵はいい絵だなと思ってもどんどん次に行ってしまったのだ。

後になってから、ふとあの絵は誰の何という絵だったんだろうと気になった。
暗い絵だったな。とレンブラントやカラヴァッジョの絵を検索してもない。夜、海、焚き火など思いつく限りのキーワードで検索しても一向に無理。記憶もあいまいで、そもそも検索ワードが正しいかどうかもあやしい。
ルーブル美術館やオルセー美術館も検索し、本屋で西洋絵画の本を読みまくり誰の画風だとか何かヒントがないか調べたがどうしても無理だった。

ところが最近、ついに判明した。
SNSのおかげだ。私の探す絵の横で撮った写真をSNSにあげている人がいたのだ。ついにその写真がキーワードにひっかかった。あとはその人のブログを読み、どうもルーブル美術館で撮ったらしいことが判明。もうすぐだ。

そして2021年ルーブル美術館が全作品を無料でネットで見られるように公開した。機は熟した。
分からなくて諦めて放っておいたら情報の側からどんどん近づいてきてくれて、ついに出合ったのだ。

その絵がこれ。
ふーん。って? まぁ絵は好き好きですから。

Night /a Seaport in Moonlight
画家:クロード・ジョセフ・ヴェルネ

 

SNSに投稿した人も、まさか自分の旅行先の何気ない1枚が、こんなに人の役に立つとは思ってもみなかっただろう。

今やネットは情報であふれている。そしてその中から欲しい情報をピックアップする便利な検索アプリも増えている。
情報となる元ネタさえあれば、ほぼ何でも調べることができる。

どこで何を食べたというような投稿も、もしかしたらそのピンポイントな情報を必要としている人に刺さっているかもしれない。

そして、私と同じように「昔見たあの夜の港の絵は誰の何という作品だろう。」と、調べまくって諦めていた人が、私のこのエッセイにたどりついて、「一発で判明するエッセイに出合った!」とどこかで感動してくれていたとすれば、このエッセイを書いた甲斐もあるというものだ