執筆者:スオミュージック
2025年05月15日

その店はいつも並んでいる。横断歩道を隔てた向こうの道路まで行列している。
店の軒下には季節の和菓子や定番和菓子の品名を筆書きした張り紙が風になびいている。
売り子さんたちはお客さんからの注文を次から次へとさばいていく。
お客さんと売り子さんを隔てるショーケースにはありとあらゆる和菓子が鎮座していて、そのうしろの上下左右に積み重ねられた木箱には、いまかいまかと出番を待つ和菓子たちが控えている。
店の一番うしろでは職人さんたちの手から続々と和菓子が作り出されていく。
お客さんたちはお目当ての和菓子がおさめられた店名入りの紙袋やビニール袋を引っ提げて、満足そうに、次なる目的地へ足早に去っていく。

週末の朝、その和菓子屋の行列を横目に、目指すは洋菓子屋、ではなくて30歩ほど先にある別の和菓子屋。行列はなく、畳2畳ほどのこじんまりした店先のショーケースには季節の和菓子と定番和菓子が並んでいる。初めて訪れた際に買ったおはぎが気に入ったので、近くを通るとつい立ち寄ってしまう。
いちご大福の旬は過ぎ、柏餅がお目見えした。こしあん、つぶあん、白みその3種類ある。
おはぎはあんこときな粉の2種類、ほかには三色だんごに茶団子にみたらし団子、ようかん、大福などなどがケースに並べられている。
目移りしながらおはぎ2種類と柏餅(白みそ)に決めて、店先のおばちゃんに声をかける。和菓子を入れたパックにお店の名前をあしらった紙をくるりと巻いて、渡してくれる。

ある朝、いつも並んでいる和菓子屋の前を通ると、珍しく行列がなかった。なかなかない機会なので、看板商品と柏餅を買ってみた。並ばずに買えたので、よりお得感が増した。美味であった。

そしてまた週末の朝。行列のできる和菓子屋はやはり行列。いつもどおり素通りして、いつものスーパーへ行き、いつもの和菓子屋へ。白みそ柏餅が気に入ったので、これは決まり。おばちゃんに聞かれてもいないのに、柏餅の感想を伝えつつ、柏餅と茶団子にする。いつもと変わらずおいしかった。

住まいする場所は、パン屋、うどん屋、ラーメン屋、喫茶店、などなど行列をなすお店があちらこちらにある。週末しか訪れるタイミングがないので、行列のその店の味を知る機会は少ない。
いつも並んでいるからおいしい、さりとて、いつも並んでいないからそうではない、ことはない。
並ばずに買える、並ばずに食べられる、いつでも変わらずおいしい、近所のそういうお店を発見しては、今日はどこに寄ろうかな、と悩む楽しみが、単調になりがちな日々に彩りを添えてくれる。