2008年04月01日

弁護士という職業柄、いろいろな文章を常に書いています。
そのときにいくつか心がけていることがあります。おそらくその多くは文章作成のどの指南書にも書かれているとは思いますが、頭の中にあるものをご紹介します。

まずは心構えです。
それは、うまい文章を書こうとしないことです。逆説的ですが、うまい文章を書こうとすると、かえって自己満足に陥り、他人が読んでも、よく分からない文章になってしまいがちです。私自身、うまい文章を書こうという意識はほとんどありません。それよりは、誰が読んでも、簡単明瞭、「あーよくわかった」という文章を書こうという心構えでいます。

では、どうやって「誰が読んでも、簡単明瞭、『あーよくわかった』」という文章を書くか。
たまたま浮かんだこのフレーズですが、ここに方法論が隠れているように思います。

まず「誰が読んでも」という点について正確にいえば、具体的な読み手を想定して、その読み手に伝わるような文章を書くということです。そのためには、一般人の読み手を相手に、特定の業界内でしか分からない言葉は使わない、ということが大事です。司法の専門用語を一般人に対して、何の説明もなしに使うのはよくない、というのがその典型です。書き手はかっこいいと思って専門用語を使っても、読み手に伝わらなければ、伝達手段としての文章の意味がありません。
ただ、ここで陥りやすいのは、「専門用語を使わない」が行き過ぎて、幼稚な言葉を使ってしまい、しまりのない、しかも読み手に対して失礼な文章を書いてしまうことです。
ビジネス文書は職業人同士の伝達手段ですから、それが幼稚であってはいけません。ネタばらしをすると、当事務所のメールマガジン執筆の際は、新聞の語法を参考にしています。大人あるいは職業人に読んでもらう文章の語法として一般に通用するのは新聞です。特に参考にするのは、その読者層を考えると日経新聞です。

次に「簡単明瞭」にするのはどうすればいいか。
ひとつには長過ぎる文章は書かないというルールがあります。必要以上に長い文章は得てして、読み手が知りたいと思っている情報以上のことが書いてあり、途中で何がいいたいのかよく分からない文章となってしまい、相手を退屈させます。
なおかつ一文を短くすることが大事です。
最悪なのは、一文の中に主語と述語が幾層にも登場する「複文」を多用する文章です。
複文の例をあげようと思いますが、私はすでに悪い例をあげることさえできなくなっているので、模式的に示すと、「私は、主語+熟語、主語+熟語、主語+熟語、…である。」
という文章です(具体例がなくって意味が分からないとの批判は甘受します)。
これをやると、読み手は途中で読むのを100%やめます。
主語述語が一文にいくつも出てくるものとして、「花は咲き、鳥は歌う」(広辞苑より)のように主語述語が並列関係にある「重文」もあり、これを多用するのも望ましくないでしょう。一文に使う主語述語は、できれば2組までにとどめておきます。とはいいえ、複文の方が分かりにくさの点では罪が重いでしょう。
主語述語が一文に何度もでてくると、必ず主語と述語が一致しない文になってしまい、その時点で読み手は本当に読む気を失ってしまいます(私だけでしょうか。)。主語と述語が一致しないとは、「私がこの本が買いました。」みたいな文です。一文が短ければ、おかしいことにすぐ気付きますが、長くなると、なかなか気づきません。
さらに簡単明瞭にするには、文章を何度か読み返して、余計な言葉をそぎ落としていくことも大事です。自分の伝えたい内容に対して必要かつ十分な言葉で文章を書くことを私は心がけています。
おまけでいえば、同じ物事、概念について記述するときは、違う言葉は絶対に使わないことも心がけています。これをすると読み手の頭は必ず混乱します。

最後、「あーよくわかった」と思われる文章を目指すコツですが、伝えたい事柄を、相手が知りたいであろう順番に一つ一つ書いていくことです。
ビジネス文書ではまず結論を書くのが大事とはよく言われることですが、より一般化していえば、相手が知りたいであろう順番に書いていくべきだ、ということです。
結論を書けと言っても、それがどのような問題意識に対する結論なのかは、導入部分で示さないと、何に対する結論か分かりません。問題提起をして、結論を書いて、その理由を大づかみなところから一つ一つ書いていくということです。ちなみに、問題提起、理由、結論というとらえ方は、司法試験の受験勉強でかなりトレーニングしました(司法試験のための勉強は、受験テクニックの習得をやっていたわけではないのです。)。
理由を大づかみなところから書くというのは、新聞の書き方を参考にしています。新聞は見出しだけ読んでも大体の内容がつかめるようになっており、読み進めばより具体的な内容が書いてあることが分かりますが、最初の冒頭の文章を読むだけでも何があったかは分かる書き方になっています。
一つ、一つ書くというのは、論理的な飛躍をしない、ということです。論理的な飛躍があると、そこでもまた読者は読むのをやめ、興味を失ってしまいます。
私が目指しているのは、最初から最後まで一回も読むのをやめさせず、スーッと読んで、「あーよくわかった」と思ってもらえる文章です。
そうなっているかどうかをチェックするいい方法があります。簡単なことですが、自分の書いた文章を小さな声を出して読んでみて、その声を自分で聞いてみることです。NHKのラジオのニュースや記者の解説を耳で聞いていると、途中でひっかることが絶対にありません。そんな感じの文章が書けていればOKです。

こうやって書いてみると大したこと書いてないなという気が一層してきましたが、何かのご参考になればと思います。