特定譲渡制限付株式について
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<ポイント>
◆現金報酬枠とは別の枠で株主総会決議を
◆譲渡禁止期間満了までは付与を受けた役員等の所得とならず

2017年6月の株主総会での留意事項として、コーポレートガバナンス・コード原則4-2の補充原則1に従い、経営陣の報酬について現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定することに留意し、経産省により平成28年4月28日に導入の手引きが公表されている「リストリクテッド・ストック」などの検討を開始すべきとの趣旨の説明をしました。(拙稿「2017年6月株主総会の留意事項」(2017年3月15日掲載)をご参照ください。)
この「リストリクテッド・ストック」は欧米で一般的に利用されていますが、その日本版は「特定譲渡制限付株式」とも呼ばれており、今回はこれについて会社法の視点を中心に説明します。

特定譲渡制限付株式は簡単にいうと一定期間譲渡制限がついた株式を報酬として経営陣に付与し、その間に株価を向上させるインセンティブを与えることを目的とした制度です。
特定譲渡制限付株式は、役員等が会社に対する報酬債権を現物出資し、それと引き換えに会社から役員等に交付されます。
交付される株式は種類株式の場合と普通株式の場合が考えられますが、後者の場合には上場会社株には譲渡制限がついてないので会社と役員等が譲渡制限の合意をすることになります(以下の説明は合意による場合を前提とします)。
手続きとしては、取締役(監査等委員会設置会社では監査等委員以外の取締役)の譲渡制限付株式のための報酬総額を株主総会で決議することが考えられます。
すでに株主総会で決議されている取締役の現金報酬総額の範囲内で運営する場合には改めて株主総会で決議する必要はないとも考えられますが、譲渡制限付株式と引換えに現物出資されるという実質に着目して別種類の報酬ととらえる方が安全だと思います。
また、そう考えることにより株主総会において制度の概要について説明することになり、より望ましいといえると思います。
また、現金報酬の場合と同様に取締役会で各取締役に対する金銭報酬債権の付与を決議します。
次に上場会社の場合には、取締役会において新株発行決議または自己株式の処分の決議をすることになります。ただし、有利発行となる場合には株主総会決議が必要です。なお、現物出資ではありますが、割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合等には検査役の調査は不要です。
最後に会社と各取締役との間で特定譲渡制限付株式に関する契約(割当契約)を締結します。その契約において役員等として勤務していない場合または業績条件が達成されない場合には会社が無償取得(没収)することが定められることになります。

特定譲渡制限株式が注目されている理由の一つとして、税法により譲渡禁止期間満了までは付与を受けた役員等の所得として捕捉されないということがあります。
したがって、期間満了までの期間については特に制限はありませんが、短期ではなく3年以上の中長期の期間を定めることが多いと思います。
これにともない、会社は特定譲渡制限付株式が交付された場合にはそのために現物出資された役員等の報酬債権を損金にできます。損金算入の時期は期間満了した株式に対応する報酬債権については期間満了日の属する事業年度となります。
また、譲渡制限期間でも役員等は株主として議決権の行使や配当の受領をすることができます。