TOB(株式公開買付け)の失敗例について(シャルレの事例)

2008年12月17日の日経新聞によれば、婦人下着販売のシャルレはTOB(株式公開買付け)の不成立を発表したとのことです。

シャルレの創業家は、支援するファンドと協力して、シャルレの100%株主となって、他の株主の意向を気にすることなく経営しようとしました。そのためには他の株主の保有する全株式を買い取る必要があり、これに要する100億円を超える株式買取資金は支援ファンドが準備することになっていました。
そこで、支援ファンドの子会社(買付者)は、2008年9月19日、まずは株主総会での議決権対象株式の3分の2以上の取得を目指してシャルレ株のTOB(株式公開買付け)を行い、TOBが成功した後、シャルレの株主総会で発行済み株式を全部取得条項付き株式へ転換することについて特別多数の賛成(出席株主の議決権の3分の2を超える賛成)を得て100%子会社化を実現することを発表しました。
取得条項とは、会社が株主から強制的に株式を取得するという条項です。詳細は当職執筆の法律情報「レックスの株式取得価格決定(東京高裁)」をご参照ください。
一方、シャルレは、同日、支援ファンドの子会社からのTOBに賛同意見を表明しました。なお、TOBに際してはその目的を達成するために必要最低限の株式数を決めることができます。本件ではシャルレの発行済み株式のうち創業家の保有する株式全てと、それ以外の株式の過半数の合計約970万株を必要最低限の株式数としました。それ以下であればTOBは不成功に終わり、TOBに応じた株主の株式買取りも行われません。

金融商品取引法では、TOBが行われる際に、株主や投資者に判断材料を与えるため対象会社の意見表明を求めています。敵対的なTOBなのか友好的なTOBなのかなどは重要な情報だからです。その意見表明は取締役会で決議される必要があります。
買付者が100%株式を取得するためのステップとしてのTOBは、最終的に他の株主の意向に関わらず金銭と引き換えに株主の地位を奪うためのものです。
しかも、経営陣の一員である創業家が支援ファンドと共に対象会社の100%株主となる手続き(これがManagement Buy Out、つまりMBOの典型的なパターンの一つです)は、買付者と対象会社が協調して行われることから、他の株主に不当な不利益を被らせないようにする必要があります。
そこで、MBOを目的としてTOBをする場合、対象会社の取締役会が賛成するかどうかを決める手続き、特に買付者が提案する株式買取価額を対象会社の取締役会が賛成する手続きには、公平性や透明性が強く要求されることになります。
そのため、上記の意見表明のための取締役会の決議に買付者(創業家かつ大株主であることが多い)側の取締役が関与することは不公平なので、これら取締役は通常、審議、決議には参加しません。
さらに、取締役だけで決めると買付者の意に沿った結論を出すことになり、あるいはそう疑われる可能性があるので、取締役会では第三者の意見を聞いた上で決めるのが普通です。ここでいう第三者は、株価算定機関(公認会計士)、法務アドバイザー(弁護士)、第三者調査機関(外部の有識者)などです。少なくとも株価算定機関(公認会計士)と法務アドバイザー(弁護士)の意見を聞いた上で決定するのが一般的です。

シャルレの取締役会は、創業家を審議、決議から排除した上で、公認会計士に株価を算定してもらい、一連の手続き等について弁護士の意見をもらったうえで賛同意見を表明しました。
しかし、この株式買取価格に関する賛成決議手続きには疑惑がもたれ、別の弁護士により手続きの公平性、透明性の調査がなされました。
その結果、シャルレの法務アドバイザーである弁護士は、手続きの公平性、透明性にお墨付きを与えたわけではなく、価格算定には、創業者一族の影響が強かった可能性が指摘されました。
この調査結果はシャルレによって公表され、シャルレの取締役会はTOBに対する賛成意見を撤回して、反対意見を公表しました。
支援ファンドは創業家との契約で、シャルレの取締役会がTOBに賛成しない場合、創業家に対しTOBに応募しないこと、または応募の撤回を請求できるようになっておりました。これにより創業家一族がTOBに応募しなかったため、買付予定数の下限に達しなかったことから、TOBは成功しませんでした。
MBO、TOBのあり方に一石を投じる事例であり、今後の影響に注視したいと思います。