限定承認手続きについて
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<ポイント>
◆限定承認をした場合、みなし資産譲渡所得税がかかるが相続財産から支払い可
◆相続財産の処分方法は競売か先買権の行使のみ

親族等が亡くなった後、相続が生じますが、相続には単純承認と限定承認があります。
単純承認は、相続財産がプラスの場合だけでなくマイナスの場合も相続するものです。相続人は、特に手続きをしなくとも法律上当然に単純承認ができます。相続放棄をしない場合には、通常はこのタイプの相続をします。
限定承認は、プラスの範囲内で相続財産を相続するというもので、相続財産がマイナスであってもマイナス部分については責任を負いません。限定承認をしたいときは、相続人は家庭裁判所で限定承認の申述をする必要があります。

限定承認をする場合、相続人は共同で申述する必要があるので、誰か一人でも単純承認をする場合には限定承認はできません。ただ、相続放棄をした相続人がいる場合にはその者を除外した相続人全員で限定承認ができます。限定承認の申述は、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内にしなければなりません。
限定承認をする場合の大きな問題は、みなし資産譲渡所得税という税金がかかることです。これは、限定承認をしたときに時価で資産の譲渡がされたものとして課税されるというものです。
たとえば、死亡した被相続人に不動産がある場合、被相続人が取得した価格と上記時価の差額が譲渡所得として課税されることになります。
その不動産が売却されておらず、上記差額である譲渡所得が現実化していなくとも、譲渡所得税は支払わなければなりません。ただ、この譲渡所得税は相続財産から支払うことができます。

限定承認の申述が受理されれば、家庭裁判所によって相続人のうちの一人が相続財産管理人に選任されます(相続人が一人の場合にはその者が遺産を管理します)。相続財産管理人等は、相続財産を自己の財産と区別して管理し、相続債権者等への支払いにあてます。
また、受理日から5日以内(相続財産管理人が選任された場合には10日以内)にすべての相続債権者等に対し、限定承認をしたこと及び2ヶ月以上の一定期間内に請求の申出をすべきこと、同期間内に申出がないときは弁済から除斥される旨の官報公告をしなければなりません(この期間を「除斥期間」といいます)。
除斥期間が満了すれば、その期間内に請求の申出をした債権者と限定承認者が知っている債権者に対して弁済をすることになります。
その弁済原資は相続財産ですが、不動産などは換価が必要な場合があります。換価の方法としては競売か、先買権の行使しか法律上は認められていません。
先買権の行使とは、相続人が、家庭裁判所の選任する鑑定人の評価にしたがった価格を支払って(銀行ローンなどによって資金調達をすることも可能)、当該相続財産を取得することです。競売は手間のかかることが多いので、先買権の行使をすることが多いようです。

以上のような手続きを終了して相続財産が残った場合、相続人はいつその残余財産の分配を受けられるかが問題となります。除斥期間内に申出をしなかった、限定承認者に知られていない債権者も残余財産に対しては権利行使できるからです。言い換えれば、上記債権者はいつまで権利行使ができるかという問題です。
これについての法律上の規定はありませんが、除斥期間が満了後、相続財産の換価手続き、弁済手続きが終了して清算が終わった後は、残余財産を相続人に分配することができ、その後は、上記債権者は権利行使ができないと一般に考えられています。
限定承認は、行き来のなかった親族の相続をする場合など非常に有用な場合がありますが、複雑で落とし穴の多い手続きでもありますのでご検討中の方はご相談ください。