遺言の方式について
【関連カテゴリー】

<ポイント>
◆遺言の主な方法は自筆証書遺言と公正証書遺言である
◆公正証書は公証役場の公証人が作成するもので、より確実とされる
◆自筆証書遺言は遺産目録が作成しやすくなり、7月からは保管制度も始まる

現経営者が後継者に株式を承継させるため、売買、生前贈与、遺言という方法があることを前回ご説明しました。
遺言はご自身の意思だけで作成できる「単独行為」であり、考えが変われば、新たに作成することもできます。最も新しいものが有効となります。
遺言はそれに沿った法律効果を、遺言者が亡くなった後、つまり当人がいない状態で認めるものなので、一定の方式に従ったものでなければなりません。その観点から民法は、特殊の方式は別として、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類の方式に限っています。
このうち主なものは自筆証書遺言と公正証書遺言です。自筆証書遺言は、その全文、日付及び氏名の全てを自書し、押印されていることが必要ですが、それで足りるので、その点で簡単だとされてきました。一方で、遺言書の紛失等、偽造・変造のおそれがあるとされ、遺言者が死亡後、家庭裁判所の検認の手続きが必要でした。
検認とは、遺言書の保管者が、相続の開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に請求するもので、裁判官の面前で、相続人の立会いの下、開封され、写しが取られて検認調書が作成されます。一種の証拠保全手続きです。
このように自筆証書遺言は簡単でありながら、検認の手間がかかり、紛失等のリスクがあることから、これまでは公証役場の公証人が作成する公正証書遺言が推奨されてきたように思います。
公正証書遺言は、遺言者が証人2人(推定相続人などは不適格)と共に公証役場に出向き、公証人にその内容を口授します。実際には、事前に文案を公証人に送ってその文言等をすり合わせておくことが一般的です。公証人が遺言書の内容を読み聞かせ、遺言者及び証人が署名、押印します。そのうえで公証人が一定の付記をして署名押印します。このように法律家たる公証人が作成することから、公正証書遺言は最も確実なものとされてきたように思います。遺言者が実際に公証人の面前に出向きやりとりをするので、判断能力(意思能力)があったものと事実上推定されることが多いということもあるようです。ただ、公正証書を作成するのは、それなりに大掛かりですし、手数料もかかります。考えが変わったとき、新しい遺言を作成するのも手間はかかります。
実務的には、弁護士が自筆証書遺言の文案作成の依頼を受け、できあがったものを弁護士が保管しておくということはしばしばありました。その弁護士を遺言執行者に指定していた場合、相続開始後、遺言執行に着手できるということもありました。

ところで、自筆証書遺言は、全文を自書しなければならなかったのですが、平成31年1月13日施行の民法改正により、自筆証書と一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合、その目録は自書しなくてもよいこととなりました。パソコンで作成した目録で構わないわけです。その毎葉(ページごと)に署名(サイン)押印が必要なことは注意しなければなりません。財産がたくさんある場合、それを正確に書き示すことは骨の折れることですから、実際上、この改正により、かなり自筆証書遺言がしやすくなったといえます。
また、令和2年7月1日からは、「自筆証書遺言保管制度」が始まります。これは自筆証書遺言を法務局(遺言保管所)に保管してもらう制度です。遺言者の住所地、本籍地、不動産の所在地などを管轄する遺言保管所に申請して、保管してもらいます。これにより遺言につき紛失、偽造・変造のおそれを回避することができます。前述の検認手続も不要となります。その代わり、ある人がなくなったとき、その相続人・受遺者がその人の遺言が保管されていないか遺言保管所に照会し、その有無につき証明書を請求することができます。あれば遺言書の画像データを用いた証明書の交付や原本の閲覧を請求することもできます。相続人等このような請求をしたことは、他の相続人等にその旨、通知されることになります。
このように自筆証書遺言が便利になったことから、こちらを活用するのも十分合理的だと考えます。もちろん遺言の内容自体は、弁護士が関与するなどして、法的な効果が確実に認められるものである必要はあります。特に株式の承継やその他の相続財産とのバランスを考えることなどにおいてです。