賃金体系の変更について
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【賃金体系の変更について】
近年賃金体系の見直しがなされる企業が多くなっています。
その主な理由としては、これまでの年功序列型の賃金体系では企業が生き残っていけないという経済情勢が前提にあると思われます。
この2年間で一部上場及びこれに準ずる企業の半数以上が、賃金体系の変更を行っているとの統計もあります。
これら賃金体系の変更はおおむね業績・成果に応じた賃金体系への変更であり、これに伴い個々の労働者間の賃金格差も拡大していくことになります。
今回は賃金体系の変更について解説します。

【賃金の決め方】
賃金体系の見直しについては、ひんぱんに新聞でも報じられているので、ごらんになった方が多いと思います。
しかし、この賃金体系の変更は、それほど簡単にはできないものなのは、みなさんご存じでしょうか。
賃金は、最も重要な労働条件であり、就業規則・労働協約・賃金規定・労働契約など、会社(使用者側)と労働者(被用者側)との合意によって定められるものです。
もちろん両者の合意があれば変更はできますが、使用者だからといって、会社は一方的に変えることはできないのです。
労働条件の変更にあたっては、労使対等の原則が労働基準法2条によって定められており、労使が対当の立場で話し合って決定することが必要です。
労働組合がある場合には、会社は労働組合と労使協議や団体交渉を行う必要があり、賃金体系の必要性及び内容等について十分に協議及び説明を行って、合意を得るよう努力する必要があります。
労働組合との合意ができれば、原則として合意の効力は組合員全員に及びます。
ただし、一部の組合員を不利益に扱うことを意図して締結された場合など、例外的に組合員に合意の効力が発生しない場合もあるので注意が必要です。

【就業規則の変更及びその制限】
しかし、組合に加入していない労働者がいる場合は、この人には原則として組合との合意内容の効力は及びませんし、協議を行っても組合との協議が成立しない場合や、そもそも組合が存在しない場合もあります。
これらの場合に、全ての労働者と合意することは不可能です。
だからといって、賃金体系の変更ができない、というのでは、企業の生き残りははかれません。
このような場合には就業規則の変更という方法があります。
しかし、就業規則の変更とは、いわば労働者と会社の契約内容の一方的な変更なのですから、裁判所は厳格な基準を設けて変更を制限しています。
まず、最高裁判所の昭和43年12月25日の判決(秋北バス事件)では、「新たな従業員がいるときに、就業規則の作成または変更によって、既得の利益を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、労働条件の集団的処理、とくにその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該就業規則が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を否定することはできない。」としています。
そして、同じく最高裁判所の昭和63年2月16日判決(大曲農協事件)では、賃金や退職金などの労働者にとって重要な労働条件についての就業規則の変更については「高度の必要性」に基づく合理性が要求されるとしています。
具体的に、どのような場合に「高度の合理性」が認められるかは難しいところですが、変更の内容(特定の者のみに極端な不利益が発生しないか、新制度として合理的なものであるかなど)、必要性(現在の給与体系の不合理性・企業の業績からくる変更の要請など)の比較考慮を基本とし、さらに代替措置の存否や社会的妥当性、交渉経過などの手続的妥当性などを総合的に判断していくと思われます。