親の子に対する監督責任

【自分の子供が事故を起こしたら?】
あなたのお子さんが、誰かとけんかして、相手を傷つけてしまったような場合、親であるあなたは損害賠償しなければならないのでしょうか。反対に、自分や家族が未成年者に暴力を振るわれた場合、その親に対して損害賠償を請求できるのでしょうか。

【損害賠償責任を負う場合ー不法行為】
一般的に、人が相手を殴ってけがをさせ、治療費の出費を余儀なくさせた、また精神的苦痛を負わせたという場合、その人は「不法行為」を行ったとされ、相手が被った損害をお金で賠償しなければなりません。
わざと相手を傷つけたり、物を壊したりしたときだけでなく、「過失」で相手を傷つけたような場合も当然損害賠償責任を負うことになります。典型的なのは、自動車事故の場合です。
被害者としては、加害者に対して、財産的な損害の他、精神的な損害として慰藉料を請求することもできます。

【子供は賠償しなければならないか】
未成年者については、民法上特別な条文があります。
すなわち、未成年者が他人に損害を加えた場合であっても、「自分の行為が違法な行為として法律上の責任が生じることを認識できる知的能力(責任能力)」がなければ、損害賠償責任を負いません。
そして、小学校卒業程度の子供であれば、このような判断能力が備わっていると一般的には考えられています。
そうすると、小学校卒業前の子供が、例えば、けんかをして、あるいはいたずらで、人を傷つけたり、物を壊したりした場合も、被害者としては、その子供に対しては賠償しろということはできません。
逆に、小学校を卒業した程度、つまり中学生程度以上であれば、被害者としては、その子供に対して賠償しろ、ということも法律上はできます。

【親の責任】
では、子供が賠償責任を負わない場合は、誰に責任を取ってもらったらいいか、というと、民法は、親が責任を負うものと定めています。親は、日々自分の子供を監督する義務があるからです。この場合、親が子供に代わって、被害者に対して、治療費や慰藉料などについて損害賠償しなければなりません。

【子供が中学生、高校生だったらどうか】
この場合は、子供に責任能力がありますので、子供自身が損害を賠償する義務を負います。
他方で、このときは原則的には親は賠償責任を負わないことになります。民法では、親の監督責任は「子供に責任がない場合に」発生すると定められているからです。
しかし、子供が賠償するだけのお金を持っているのは希ですから、これでは、被害者からすればいかにも保護されてないということになるでしょう。
この点、最高裁判所の判例には、例外的に親の監督責任を認めたものがあります。中学3年生(15歳11か月)の少年が中学1年生の新聞配達の少年を殺害して代金を奪ったという事件について、「未成年者が賠償責任を負う場合であっても、親権者が未成年者を監督する義務を十分尽くしていなかったと認められる場合には、不法行為が成立する。」と判断しました。
この判例は実際上も定着しており、子供が小学校卒業程度の年齢を超えていたとしても、親が監督責任を負う場合もありえます。

【子供が中学生以上の場合、親への責任追及は少し難しい】
そうすると、子供が何歳であっても、未成年でさえあれば、結局親は責任を負うことになるのではないか、とも思われますが、被害者が裁判で親の責任を追及しようとするとき、子供に責任能力があったとすれば、親の監督が不十分だったことと自分が被った損害とが直結していることを証明しなければなりません。その意味で被害者にとってはハードルが高いと言えるでしょう。