製品事故の報告義務付け法案
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ガス湯沸かし器による一酸化炭素(CO)中毒事故やシュレッダーによる指切断など、近時、痛ましい製品事故が相次ぎました。
これらのメーカーは過去に同種の事故が発生したことを把握しておきながら公表していなかったため、一般消費者はその製品の危険性を知ることが出来ず、事故が繰り返されてしまったという側面があります。
これまで経済産業省は製品事故を同省に報告するよう通達で指導していたとのことですが、結果として実効的でなかったと言えるでしょう。
そこで、同省はメーカーや輸入業者に製品事故の報告を義務付ける「消費生活用品安全法の一部を改正する法律案」をまとめました。この法案は現在臨時国会で審議されており、今国会で可決すれば、公布より6ヵ月以内、つまり来春にも施行される見通しです。

報告義務の対象となる製品は「消費生活用製品」、すなわち電気製品、家具のほか一般消費者が生活に使う製品全般です。ただ、自動車や医薬品など他の法律で厳格な安全規制がなされていれば既に手当がなされているので本法の対象外です。

このような製品の製造業者(メーカー)又は輸入業者が重大な製品事故を知ったとき、主務大臣への報告義務が課されます。これとの対比で言えば、小売販売業者や修理・設置業者は、重大な製品事故が生じたことを知ったとして、そのことをメーカーや輸入業者に通知すべき「努力義務」が課されるに留まります。
メーカーや輸入業者が報告を義務付けられる内容は、事故製品の名称・型式、製造・輸入数量、販売数量、事故の内容です。なお、主務大臣とはその分野を所管する大臣という意味ですが、経済産業の分野では当然経済産業大臣です。

そこで「重大な製品事故」とは何かということが問題となります。
これについて法案はまず「製品事故」を次のように定義します。製品の使用に伴い生じた事故のうち、(1)一般消費者の生命又は身体に対する危害が(実際に)発生した事故、又は(2)製品が滅失若しくは毀損した事故で、一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生する「おそれのある」(括弧は筆者による)もの、です。(2)によれば、単に製品が壊れて、現実には生命・身体が害されなくても、危害が発生する「おそれ」があったならば、それは製品事故とみなされることが読み取れます。
その上で法案は報告義務の対象となる事故を「重大製品事故」に限定しています。「重大」とは、発生した危害、発生するおそれある危害が重大だ、ということです。経産省のまとめた政令案では「死亡事故、重傷事故、一酸化炭素(CO)中毒、火災などで、自殺や交通事故は対象外」(10月18日付日経新聞から引用)とされているようです。
一方、「製品事故」に関しては主務大臣への報告義務までは課されていませんが、事故の原因調査、製品の回収等の措置をとるよう「努める」義務が定められています。販売業者はその回収等に協力するよう「努め」なければなりません。
報告の期限は政令案では事故発生から10日以内と定められています。

報告を受けた主務大臣は、重大な危害発生・拡大を防止する上で必要があると認めれば、報告を受けて7日以内に、その事故製品の名称や事故内容など、のみならず危険の回避に役立つ事項を公表するものとされています。報告によらずとも、主務大臣が重大製品事故の発生を知ったときも同様です。

メーカーなどが報告を怠り、又は虚偽の報告をした場合、主務大臣はその事業者に対し、重大製品事故に関する情報収集、その管理・提供に必要な体制整備を命じることができます。
このような「体制整備命令」に違反した場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(法人にも100万円の罰金が科されます。)。

製造物の欠陥によって事故が発生すれば、メーカーなどは民事上の製造物責任を問われることになりますが、重大事故の場合は被害拡大防止に向けた措置を採るべきことが行政法上明確に義務付けられたことになります。前述のとおり本改正法は来春にも施行見込みとのことなので、企業のコンプライアンス確保のため本改正法への対応も可能な体制になっているか再検討が必要でしょう。