職務発明の対価請求について
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<ポイント>
◆対価額の計算方法
◆発明者が準備すべき資料など
◆会社が検討すべき事項(対価請求が認められない典型例の検討)

1 はじめに
 職務発明の対価請求については、2005年1月に東京高裁で和解が成立した青色LED訴訟が注目を集めてから、多くの訴訟が提起されました。また、平成16年・平成27年にも職務発明制度の改正がなされ多くの議論がなされています。なお、各改正についての詳細は特許庁のホームページ(https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu.htm)をご参照ください。
 これら改正によって、勤務規則に定めた報酬額が有効となり、あるいは特許を受ける権利をその発生時から使用者等に帰属させることが可能となりました。ただし、これら規定を有効とするためには、使用者と従業者においてしっかりと協議を行わなければなりません。他方で、こうした協議が行われていない場合には、従前の裁判例で示された計算方法が適用される余地があります。以下では裁判例で認められている計算方法とこれに必要な資料等の概要を説明します。
2 対価額の基本的な計算方法
 計算方法は概ね次の2つのパターンに分かれます。
(1)自社実施(自社販売)の場合
   相当対価額=(a)特許発明の実施品の売上×(b)超過売上(10~40%)×(c)仮想実施料率(1~5%)×(d)(1-企業の貢献度)(1~10%)×(e)共同発明者間での貢献度(発明への関与の度合いによる。)×(f)発明の寄与度(実施されている特許発明の数・各発明の重要度によります)
  括弧内の数字は、比較的多くの裁判例でみられる数値です。
(2)ライセンス料を受領している場合
   相当対価額=(g)受取ライセンス料×(d)×(e)×(f)
  いずれにしても、売上またはライセンス料がスタートラインとなります。これに様々な寄与の割合をかけて金額が減少していくことになります。上記の他にも既払額があれば控除され、また中間利息が控除されるケースもあります。
3 発明者が準備すべき資料
 発明者が対価請求訴訟を提起する場合には、上記対価額の主張・立証をしていくために特に以下の資料が重要となります。
(1)自身の特許発明が実施された商品の売上額。
(2)発明の経過を記録した実験ノートや月報など。
(3)発明の段階以外にも例えば販売活動、特許権としての権利化の活動について寄与していればそれを証明しうる資料。
(4)発明について受賞等の実績があればその表彰状など。
(5)会社に発明取扱規則が定められていればその規則。
4 会社が検討すべき事項
 発明者からの請求に対して会社側は以下の事項をまずは検討することになります。対価請求権が認められないという結論を導くことができるからです。
(1)対価請求している者が、そもそも発明者とは言えないのではないか。
(2)請求を受けている特許は当該製品に実施されていないのではないか。
(3)10年の消滅時効が成立していないか(いつから10年を起算するかは、発明取扱規則の有無、規定の内容によります。なお一部対価の支払いにより時効の中断が認められることもあるので注意が必要です。)。
 職務発明の対価請求はやや特殊な事案であるため経験のある弁護士に相談されることをおすすめいたします。