無議決権株式について
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今年1月17日の日経新聞によると、東京証券取引所は非公開会社の無議決権株式のみの上場を容認することを柱とする報告書を発表したとのことです。
無議決権株式とは議決権のない株式であり、複数議決権株式(普通株式より多くの議決権を有する株式)や黄金株(合併などの重要な案件を拒否することのできる株式)と同様に種類株式の一種です。
アメリカでは、上場企業の約21%が複数議決権株式または無議決権株式などの種類株式を発行しているそうです。ヨーロッパでも同様の状況のようです。
このような種類株式を「議決権型」種類株式ということもあるようです。

無議決権株式の発行は従来から認められていましたが、2005年(平成13年)の商法改正までは配当に関する優先株式に限り議決権がないものとすることができ、優先配当がない場合には議決権が復活するというものでした。
2005年の改正によってこの制限はなくなりましたが、上場会社は例外を除いて発行できませんでした。少額出資しかしていない株主の支配権維持によるコーポレート・ガバナンスの歪み防止や市場参加者の保護がその理由です。

これに対して、2007年12月19日に経済産業省の企業価値研究会は、東京証券取引所に無議決権株式の解禁を求める提言を行い、東京証券取引所も冒頭の報告書を公表しました。これら提言や報告書の中では、無議決権株式の上場による弊害を避ける方法が提案されています。
たとえば、株主総会で無議決権株主に不公平な決議をすることを防止する方法です。
株主総会には議決権を有する株式(普通株式)の株主しか出席しませんから、無議決権株主にとって不公平な決議がされるかもしれません。そのため、会社法322条は、株式の内容の変更など一定の行為が特定の種類株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、株主総会とは別にその種類株主で構成される「種類株主総会」での決議がなければその効力を生じないことにしています。
ただし、これにも例外があって、定款で種類株主総会の決議を不要とすることもできます。したがって、そのような定款の規定があれば、結局、普通株主による株主総会の決議だけで無議決権株式の株主に不公平な決議がされてしまうおそれが残ります。
そこで、前出の企業価値研究会では、上場会社ではそのような定款の規定を許さないか、そのような定款規定をする場合には種類株主間(普通株主と無議決権株主)の利害調整の基本的考え方の定款への記載や独立委員会などの活用により無議決権株主の正当な利益を擁護することを担保することが提言されています。
また、今回の東京証券取引所の報告書では、一定の状況(たとえば極めて少額の出資者が会社を支配する状況)の下では無議決権株式の株主にも株主総会での議決権が与えるような方策等が提案されています。

このように上場無議決権株式の導入は目前に迫っているといっていいと思いますが、これに対して、複数議決権株式や黄金株については、東京証券取引所は、現在のところ、既上場会社がこのような株式を発行する場合には原則として上場廃止とする旨の規則を有しており、その改定についての目処は立っていません。なお、アメリカにおいても上場後にこのような株式を発行することには制限があります。