減産による休業期間中の給与減額について
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昨年来の不況により、企業の経営環境は厳しい状態が続いています。
その中で、受注の減少などの理由で、工場を一時的に閉鎖したり工場の操業時間を短縮せざるをえないと経営陣が判断し、従業員にもともと約束していた労働時間分働いてもらうことができない場合があります。
このようなとき、雇用関係は維持したまま一時的に従業員を休業させることがあり、これを一時帰休といいます。

このとき会社側は労働者の給与を減額することができるのでしょうか。

労働基準法では、「使用者(会社)の責に帰すべき事由」によって休業する場合には、通常の6割以上の賃金(給与)を支払わなければならないことが定められています。
一方、民法では、「債権者(会社)の責めに帰すべき事由によって」従業員が労働力の提供ができなくなった場合には、従業員は給与全額を受け取る権利を失わないことが定められています。

この2つの異なる基準のうち、どちらの支払義務があるのかは解釈上難しいところですが、最高裁は、昭和62年7月17日のノースウエスト事件判決において、民法上の基準を満たせば、労働者は民法の定めに従い給与全額の請求ができるとしています。
そのように解すると、なぜ、労働者保護のための法律である労働基準法で民法より低い支給基準となっているのかという疑問が生じます。
少しややこしいのですが、この点は以下のように考えられています。
労働基準法の場合は、民法と似たような文言であっても、労働者保護という法律の趣旨からして会社側に厳格に解釈すべきであるので、大地震で工場がつぶれたなどの不可抗力による場合を除いて、全ての場合に会社に6割以上の給与を支払う責任が生じると解釈すると考えられています。
一方で、民法の場合には、言葉どおりに、従業員が労働力の提供ができなくなったことについて、会社に落ち度があることを労働者側が証明しなければならないので、労働基準法が適用される場合より会社の責任が認められる場合が限定されます。
つまり、労働基準法による補償の場合は、支払われる額は少ないものの、労働者の証明責任が大幅に緩和されているので、これにより労働者を保護していると解されているのです。

現在の世界的な不況による減産が、民法上の100%の給与が支払われるべき事案かどうかは見解がわかれますし、ケースバイケースで個々に司法の判断を受けなければならない場合が多いと思われます。

このような紛争を避けるために、会社としては予防的に、就業規則等に「休業手当を支払う日について労働者はその余の賃金を請求することができない」などの規定を定めておく方がよいと思います。

なお、最近の休業期間に関する判例として、5月12日、いすゞ自動車の期間従業員が、給与全額の支払を請求する仮処分を申請し、裁判所により従業員の給与全額請求が認められています。

この事案では、「休業措置の合理性」が主な争点になっていた事案であり、期間従業員と(休業措置のない)正社員との差別に合理性がない、経営状態がそれほど悪化していない、などの理由で会社の取った休業措置の合理性自体が認められなかったようです。
会社側にとっては厳しい裁判例ですが、休業措置を行う場合には、その措置を取ることの合理性を十分検討したうえで、労働者側と十分話し合いを行い、納得を得るよう努力するなど慎重な配慮がますます求められているといえます。