法律論としての継続的契約関係
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<ポイント>
◆取引年数のみを根拠に継続的契約が成立するものではない
◆継続的契約関係が成立したという時点での取引当事者の意思が問題
◆日常用語としての「継続取引」とは異なる概念

継続的契約関係の解消は企業取引をめぐってよく問題となる事柄のひとつです。
たとえばメーカーA社が取引先B社に何年も商品納入をつづけてきたが、ある日急にB社から取引打切りを通告された、などのケースで問題となります。B社がそれまでの取引関係に配慮せず強硬な態度をつらぬく場合、A社としては、B社に発注義務あるいは買取義務があると主張できないか、あくまで取引打切りというなら損害賠償請求できないかといったことを考えます。
売買のほかにも請負、業務委託、フランチャイズ、代理店契約などでも同様に継続的契約関係をめぐる問題があります。継続的売買、継続的供給契約など類似する用語もありますが、本稿でいう「継続的契約関係」とほぼ同じ意味です。

件数でいえば、当事者双方が長年の取引関係に配慮して協議により解決しているケースが多いでしょうが、継続的契約関係の解消をめぐる問題はこじれて紛争化してしまうと見解の開きが大きく泥沼化しがちです。
どうしてそうなるのでしょうか。

損害額をどう算定するかといったことも関係はしてきますが、それ以上に根本的な対立の原因としては、請求する側(A社)と請求される側(B社)とでそもそも「継続的契約関係があったといえるのかどうか」の認識が大きく異なっていることがあります。
あるいは「継続的契約」「継続的取引」という言葉から世間一般にイメージされるものと、それが法律的な拘束力をもつという意味での契約関係なのかのギャップともいえます。
数年あるいはそれ以上の年数にわたって定期的な受発注がつづいていれば、社会的にはそれを継続的取引と表現してもさほど違和感はないでしょう。そこでいう継続的取引には、「当初の意図はともかくも取引がつづいた」「結果的に取引がつづいた」というケースも含まれます。

しかし、法律論としての継続的契約関係は異なります。
法律的には、取引の継続性そのものについて拘束力をもたせる意思で当事者が取引していなければ、そもそも継続的契約関係が成立しているとはいえず、これに基づく損害賠償請求ということもありえません。
そして、取引継続に関する当事者の意思は、継続的契約関係の開始時点(より正確には、当事者がそのように主張する時点)を基準に判断します。たとえばA社が「5年前に継続的契約関係が法的に成立しており、B社は当該契約に違反している」と主張するのであれば、5年前に両社の意思がどのようなものであったかを議論しなければいけません。5年前の時点でいかなる内容での取引継続を意図していたのかです。
弁護士が代理人についているケースでも往々にしてみられるのが、どの時点で・どのような契約関係が成立していたのか、その時点での当事者の意思がどのようなものであったかを意識せずに漠然と「○年間も取引がつづいたのだから継続的契約だ」と主張してくるケースです。結果的に取引がつづいただけのケースと、法的な意味での継続的契約関係とを混同しています。
なお、継続的契約関係が成立するためには契約書の存在は必須ではありません。一般的な取引基本契約書は必ずしも取引継続そのものについて拘束力をもたせる意思を示すとはいえず、これのみを根拠に継続的契約関係が成立するわけではありません。

いきなり取引打切りを通告された立場としては、何年も取引がつづいてきたのに…ととにかく言いたくなるのは分かります。
しかし、法律論としてはそれだけでは不充分なのです。個々の受発注分の代金を超えて取引相手に将来の見込み利益や設備投資の費用を補てんするよう求めていくにはそれなりの根拠が必要ということです。ややシビアな部分はあるかもしれませんが、取引開始時点のビジネスジャッジにおいても考慮しておくべきことです。

どの時点でどのような内容の契約関係が成立したと主張するのかは、取引相手への請求を行う前によく吟味しておかなければいけません。致命的に重要な事項であり、これについてたびたび主張が変わるようでは請求行為自体の説得力に関わります。

また、取引終了をめぐって相手企業から損害賠償されないだろうかといった不安があればまずは弁護士に相談してください。紛争化させないための予防策を講じることもできます。
また、万一相手企業から莫大な損害賠償請求を受けても焦らないでください。
上で述べたように継続的契約関係を根拠に損害賠償請求するというのは、一般にイメージされている以上にハードルが高いことです。
請求の根拠に関していくつかの質問事項をぶつけるだけで相手の主張がボロボロとくずれていくこともあります。