橋梁入札談合事件 ~「不当な取引制限」とは

国土交通省が発注した鋼鉄橋梁工事の入札に関し、一定のルールに従って事前に受注予定企業を決定し、競争を実質的に制限した疑いで、東京高検は5月26日、メーカー11社の営業担当幹部ら14人を独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で逮捕しました。47社が関与した過去最大級の大型談合事件と見られています(日本経済新聞5月27日付朝刊)。

このように、土木建築工事などの発注者が、競争入札の方法によって受注者を決める場合に、応札者の側で事前に落札予定者を決めておくのが(入札)談合です。
談合は、独占禁止法上、「不当な取引制限」の一種として禁止されています。すなわち、独占禁止法は、事業者が他の事業者と共同して対価を決定するなど相互に事業活動を拘束し合うことにより競争を実質的に制限することを「不当な取引制限」として禁止しており、相互拘束の仕方として、対価の決定のほか、取引の相手方を制限することも例示としてあげられています。談合には、入札予定価格を事前に決めておくことが当然伴いますし、落札予定者を決めておくことは「取引の相手方の制限」の一種と考えられています。
もちろん、不当な取引制限は、入札談合に限られず、一定の取引分野(市場)に参加している複数の競争者間で、販売価格を協定(価格カルテル)して、競争を回避することも当然これに該当します。
相互拘束の合意があるだけで「不当な取引制限」が成立するのが特徴です。その合意を実行することも違反行為ですが、実行しなければ違法でないとは言えません。合意は書面によってされる必要もなく、「暗黙の合意」でされても違法です。

このような「不当な取引制限」が違法とされるのは、競争を実質的に制限することで「公正かつ自由な競争」が阻害され、ひいては「一般消費者の利益」が害され、「国民経済の民主的で健全な発達」が阻害されるからです。公共入札談合の場合は、競争があれば、より低廉なコストで公共工事を受注できた可能性があったのにそのチャンスが奪われることになり、その負担は納税者に跳ね返ってきます。

「不当な取引制限」を公正取引委員会が察知した場合(そのきっかけとして、いわゆる内部通報もありえます)、公取は必要な調査をし、違反事実ありと判断した場合は、協定の破棄などを事業者に対して勧告することができ、事業者がこれに応諾すれば、「勧告審決」の形で決定がなされます(なお、勧告制度は法改正により廃止されます)。事業者がこれに応諾しなければ、公取における準司法手続きとして審判開始決定がされます。その結果、やはり違反ありと認める場合は、当該違反の差し止めなど「排除措置命令」が出されます。これに不服がある場合は、審決の効力発生日から30日以内に東京高等裁判所に、審決取消訴訟を提起することができます。
また、違法行為によって事業者等が得た不当な利益を国が剥奪するために課徴金が課されます。金額は法定されており、実行行為のあった最大3年間の、当該商品又はサービスの売り上げ額の6%(製造業等の大企業の場合)です。
この課徴金制度は平成17年の法改正により大きく見直されました。課徴金算定率は、製造業等の大企業の場合で10%に引き上げられました。また、事業者が違反行為を早期にやめたときは算定率を2割軽減し、他方10年間に繰り返し課徴金納付命令を受けたときは、算定率を5割加算しています。また、公取の調査開始前に違反事業者が自己申告すれば、課徴金額が減免(最初であれば100%、2番目で50%、3番目で30%)されることになっています(調査開始後でも一定限度で減額あり)。アメとムチの政策がとられています。

そのほか、「不当な取引制限」違反行為は犯罪でもあります。今回の橋梁談合についても、公正取引委員会は立入検査などをした結果、その規模の大きさ、悪質性を踏まえ、検事総長に告発しています。検事総長は、東京高検に捜査を指示、今回の逮捕へと繋がっています。この違反行為については、実際に違反を行った担当者について、3年以下の懲役又は500万円以下の罰金が法定されているのみならず、法人に対する5億円の罰金刑も規定されています。また法人の代表者が、違反を知って必要な措置を講じなかった場合には、代表者にも担当者と同様の刑罰が規定されています。
課徴金と罰金とは目的を異にするもので両方課されることもありえますが、改正法は、この場合、課徴金の額から罰金額の50%を控除するとして調整を図っています。

改正法は公布日である平成17年4月27日から1年を超えない範囲内で政令で定める日から施行されます。