株主代表訴訟で取締役の賠償責任軽減-商法改正
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【商法改正】
会社経営上の注意義務を尽くさなかったために会社に損害を与えた取締役に対して、株主が損害賠償を求める株主代表訴訟において、その賠償責任を軽減するための商法改正案が12月5日の参院本会議で可決、成立しました。
従来の商法では取締役の損害賠償責任を制限する規定がなかったため、産業界からは「経営判断を萎縮させないための歯止めが必要」との要望が出ていました。
大和銀行の不正取引事件の責任を問われた同行経営陣に対し、昨年秋に大阪地裁が総額約830億円もの巨額の賠償を命じたこともこのような議論に拍車をかけていました。
そこで、今回の改正では、監査役の機能をいっそう強化するなどの経営監視強化策を盛り込んだ上で、取締役らの賠償責任を企業判断で軽減できるようになりました。
産業界には「思い切った事業戦略を打ち出しやすくなる」との声も出ているようです(平成13年12月5日付け日本経済新聞朝刊)。
なお、この問題に関しては本ホームページ「勉強室」の「企業経営と法律」「取締役の責任」(梅本弁護士執筆)にも詳しく取り上げています。

【賠償責任の最低ライン】
具体的には取締役らの賠償責任を、代表取締役の場合はその報酬の6年分、代表権のない社内取締役の場合はその報酬の4年分、社外取締役と監査役の場合はその報酬の2年分まで、株主総会または取締役会の判断で軽減することができるようになりました。
与党三党の当初の法案では一律報酬の2年分としていましたが、民主党との協議により、役員それぞれの地位によって6年、4年、2年という最低ライン設けることができるようにしました。

【軽減のための手続】
賠償責任軽減の判断をするのは株主総会か取締役会です。
つまり、株主代表訴訟が提起されたときに株主総会で賠償額を軽減することを承認する方法と、株主総会が議決権の3分の2以上の賛成によって定款を変更し、軽減の権限を予め取締役会に与えておいて、取締役会が代表訴訟毎に具体的な賠償額を決定する方法が設けられました。
但し、取締役会が賠償額を決定する場合については株主の反対が持ち株比率で3%以上に達すれば取締役会の決議は無効になります。
株主の提訴資格については「乱訴につながる」という理由で不祥事が起きたときに株主だった者に限るという議論もありましたが、この点については改正されず、従前どおり株式を6か月保有していることだけが条件です。

【監査役の機能強化】
反面、取締役の賠償責任を軽減するだけでは企業統治(コーポレート・ガバナンス)の目的は達成できません。
そこで、今回の商法改正によって監査役の機能がいっそう強化されました。
資本の額が5億円以上又は負債の額が200億円以上の株式会社(大会社)では、監査役の半数以上を社外から起用することとし、社内・社外を問わず監査役の任期を4年に延長しました。
また監査役の選任については監査役会の同意を必要とし、監査役が取締役会へ出席・意見表明することは現行法では監査役の「権利」とされていますが、大会社についてはこれを「義務」として、取締役会に対する監視を強化しています。

【今後の動向】
これまで賠償責任についての上限がなかったため、前述の大和銀行事件のように取締役は一生かかっても到底払いきれないような巨額の支払いを命じられることもあり得たのですが、今回の商法改正により取締役らの責任範囲を合理的なものにするための措置が取られました。
このような改正に対しては産業界から「果敢な経営判断ができるようになる」という声が挙がっているようです。
改正商法の施行は来年4月になる見通しであり、大手企業は同6月の株主総会で一斉に定款を変更して責任軽減策を盛り込むことが予想されます。
とはいえ取締役ら経営陣が法律に従い、株主の利益を最大限にするような経営判断をしなければその責任を追求されることには変わりません。
商法その他の法令に基づいた適正な経営がなされ、これに外れる判断がなされた場合には相応の責任が追及されるという仕組み自体は今後も維持されることが期待されるところです。