東天紅事件 ~証券取引法5%ルールについて~

【東天紅事件】
中華レストラン「東天紅」の株式公開買い付け(TOB)をめぐり、発行済み株式の5%を超える同社株を保有しながら大量保有報告書を提出しなかった等の事件で、平成14年11月8日、被告人に対して懲役2年、執行猶予4年、罰金600万円の判決がなされました。
これは証券取引法27条の23に規定する「5%ルール」に違反するもので、同条違反の最高刑は懲役3年以下または300万円以下の罰金となっています(同法198条5号)。
この事件は「5%ルール」違反での刑事事件としては初めてだということです。

【証券取引法5%ルールとは】
それでは、この「5%ルール」というのはどういうもので、何を目的に、いつ定められたのでしょうか。
証券取引法では、上場会社(店頭登録銘柄の発行会社を含む。)の株式を保有する者は、その保有株式が発行済み株式の5%を超えた日から5営業日以内に大量保有報告書を大蔵省に提出するよう義務づけています。
会社は、上場して株式を公開した以上、誰が株主になっても構わないということを表明したのと同じであり、市場を通じて、誰が、いくら自社の株式を取得しても問題にすることはできないはずです。
しかし、原則はそのとおりでも、全く何らの規制がない状態では弊害が生じることになります。
たとえば、ある者がある上場会社の株式を徐々に買い集める場合、株価は徐々に増加していき、また、経営陣は、誰が、何のために株式を買い集めているのか不安感にさいなまれることになります。
そして、その結果、経営陣の交代が行われるのではなく、経営陣側が買い集められた株式を引取ることで不安を解消して経営を正常化させようとし、買い集めた側は通常の投資家が得ることのできない莫大な利益を得ることになります。
このようなことが野放図に行われれば、一般投資家による株式市場の信頼を失わせることになりますし、買い集めによる株価の上昇と経営陣の買戻しによる株価の急下降、株式の品薄による株価の乱高下によって、一般投資家は予測できない損害をこうむることにもなります。
そこで、上場会社の株式を大量に保有する者は、その氏名、株式を買い集める目的、その資金の出所等を明らかにさせて、市場の透明性を確保して、公正な競争を促進するということにしたのです。
この規定は、証券取引法の平成2年の改正で導入されたもので、同時期に公開買付けの規定が改正されました。

【どういう場合が該当するか】
大量保有報告義務を有する者とは発行済み株式の5%以上を有する者であり、その目的は問いません。
当然に会社も含まれますので、たとえば投資顧問会社はこれに該当します。
また、本人名義だけではなく、他人名義をもって株式を保有する場合、名義の変更は未了でも契約に基づき株券の引渡請求権を有する場合、共同で株式を保有する場合も含めて「5%」は計算されます。
従って、未成年者が株券を保有している場合の親権者は、自分の分と未成年者の分とを合計して計算することになります。
なお、冒頭の東天紅事件では、被告人が知人名義で同社株の買い集めを行い、発行済み株式の20%近い400万株以上を保有したというケースでした。
また、大量保有報告書では上記のとおり株式の取得資金の出所を明らかにさせています。
これは、金融機関からの借入れによる株式の買い集めをすることを抑止する効果を有するものとされており、上記のような不当な利益を得るための株式の買い集めを防止するものです。