村上ファンドと楽天の違い
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村上世彰氏が率いるいわゆる村上ファンドが阪神電鉄株の約40パーセントを取得し、阪神球団の株式上場をはじめ、経営にあれこれ口を出し始めています。
また、楽天の三木谷氏はTBSの株式の約20パーセントを取得し、TBSに対して経営統合などを迫っています。
どちらも、最近新聞紙上をにぎわしている話題ですが、この両者には共通点と相違点があります。
共通点は、どちらも株式を購入してその会社の主力株主となり、その発言権を背景に、自らの欲望を遂げようとしているところです。
相違点は、村上ファンドが安く買った株式を高く売ってその差益を得るのが目的なのに対して、楽天の場合は、TBSと経営統合などを通じて事業を発展させることが目的です。

村上氏がやっていることは、一般投資家が行っている株式投資と同じです。違うところは、投資金額が桁はずれに大きいことと、それを背景に会社に対し影響力を及ぼそうとする点です。
小口の一般株主は会社に対しほとんど発言権がないので、他力本願で、遠くから会社の業績と株価の上昇を楽しみに眺めているだけです。
これに対し、村上ファンドは、直接会社に乗り込んでいき、経営者と談判し、経営の施策を提案し、圧力をかけて、何が何でも株価が上がる経営に変換させようとします。
今までは経営者も従業員も既存株主もこれでよいと思っていた(ステークホルダーすべてがハッピーであった。阪神電鉄のように。)会社に対し、今のようなぬるま湯的経営ではダメだ、もっと資産を有効に活用せよ、企業価値を高めよ、増配せよ(増配すると必然的に株価は上がる)、能力なき経営者は交代させろ、などと迫るのです。

結果として、村上氏の思惑は程度の差こそあれほとんどの案件で功を奏しています。そして、大きな儲けを手にしています。「ムラカミ錬金術」などと言われます。
このような村上氏の行為を正義とみるか、単なる利己主義とみるか、倫理的とみるか非倫理的とみるか、尊敬すべき言動とみるか、軽蔑すべき言動とみるか、なかなか難しいところです。
金力にモノを言わせ、他人にプレッシャーをかけて自らの利得を追求する、という点に着目すれば、多くの人は否定的見解に立つでしょう。
しかも、村上ファンドの背後には多くの金主が存在し、かれらは自らの名を明かさず、村上氏に一定の報酬を落とすだけで、知らんぷりして大きな利得の分配を受けている点も不愉快です。金持ちをますます富ませ、貧富の差を広げるという意味においても資本主義の陰の部分と言えます。

しかし、村上ファンドの行動は、企業社会に何のプラスももたらさないか、というとそうではありません。
従来の日本企業の多くが「ぬるま湯的経営」を行ってきたことは否定できません。(例外は特別有能な経営トップが君臨していた企業だけです。)それを支えてきたのは、「株式の持ち合い」による安定的株主構成と、彼らが「モノ言わぬ」株主であったことです。
ここに来て、「モノを言う株主」である村上氏が登場し、経営者の怠慢や横暴、株主利益への無配慮などを鋭く批判するようになりました。多くの日本企業に対し警鐘を鳴らし、経営者に緊張感をもたせました。これらの点では大いに貢献があったことを認めないわけにはいきません。

かたや、TBSの株式を保有した楽天・三木谷氏。
彼の場合の株式保有の目的は、村上ファンドのように、株を安く買って高く売り逃げる、というものではありません。自らの事業の拡大と発展を目指して、TBSとの経営統合等を提案するための株式取得です。
大量の株式保有を武器に相手に要求を飲ませようとする姿勢は村上ファンドと同様かもしれません。
しかし、事業の発展は多くの人々に新たなる価値を提供します。社会のニーズを満足させ、雇用機会を拡大させ、経済成長を押し上げる力にもなります。一部の金持ちの財布だけをさらに重くするというものではありません。
これらの点が、村上ファンド・村上氏に比べ、楽天・三木谷氏に好感を抱く、また夢を感じるゆえんかもしれません。

もっとも、楽天・三木谷氏の思惑が成功するかどうか、それが客観的・社会的に高い評価を獲得できるかどうかは微妙です。株式の大量保有はオールマイティではありません。「敵対的買収は成功しない」というジンクスを破ることも容易ではありません。
彼が目指しているのは、「ネットとメディアの融合」というきわめてスケールの大きい現代的課題です。ライブドアがニッポン放送・フジテレビにしかけて挫折したのも同じテーマです。
簡単に言えば、テレビ局などが持っている膨大なコンテンツ財産をインターネットでも提供しようとする事業ですが、それによる相乗効果が無限の広がりをもっていることが特徴です。
しかし、その具体的な形、現実的なビジネスモデルは(部分的にネット企業側、メディア側双方で実験的な事業は実施されていますが)まだ誰にも見えていません。
このテーマは近い将来、間違いなく、前進していきます。問題は、誰がイニシアティブを握り、どのようなビジネスモデルで展開されていくか、ということだけです。

株式の大量保有、企業の買収などに関しては、当分の間、話題が尽きることはありません。
しかし、その背景事情に踏み込むとさらに興味が深まってきます。