最高裁判例 HPで公開-最高裁判例が果たす役割

【最高裁判例 HPで公開】
6月22日から、最高裁判所のホームページ(http://www.courts.go.jp)で民事訴訟、刑事訴訟の最高裁判所の判例が試験的に公開されるようになりました。
公開されているのは、1947年からの最高裁判所の判例のうち、利用度の高いものとして最高裁判所判例集に掲載された約7500件です。
これまで、一般市民が法的な事件に遭遇したときに、同じような事件についての判例を知ろうと思っても、その内容を知ることは容易ではありませんでした。企業においても法務スタッフや法律文献が充実していない限り、やはり容易ではなかったでしょう。
そこで、最高裁判所は97年5月にホームページを開設して、知的財産権関連訴訟の判決、労働事件の判決、憲法判例などを順次公開してきました。
そして、今回、最高裁判所の判例を分野を問わずに公開することになりました。
キーワードや判決日などで検索すれば、該当する判例がヒットします。
例えば「株主総会」と入力すると71件が選択されました。
そして判例を開いてみると、判決の主文、理由とともに、「要旨」も書かれていますので、結構わかりやすい形で掲載されています。
例えば、「株主総会」で検索した「H04.12.18第二小法廷・判決 平成2(オ)1259 取締役報酬」という判例の要旨には、次のように記載されています。
「取締役の報酬につき、株主総会がこれを無報酬に変更する旨の決議をしても、当該取締役は、右変更に同意しない限り、報酬請求権を失わない。」
政府の司法制度改革審議会の最終意見でも「司法の透明性向上や紛争の予防・早期解決のため、判例情報を全面的に公開していくべきだ」と提言しており、HPでの公開は早速その提言を実現しようとするものであると考えられます。
最高裁は今後も高等裁判所、地方裁判所の判例の公開も検討しているとのことです。
企業であれ一般市民であれ、何か法律問題にぶつかったとき、判例を検索すればなんらかの手がかりが得られるかもしれません。

【最高裁判例が果たす役割】
ここで、最高裁判所の判例が果たす役割についても若干ご説明します。
日本の裁判制度上、権利関係の有無を争う民事訴訟においても、被告人の有罪無罪を判断し、刑罰を決定する刑事裁判においても、裁判の当事者は3回裁判を受けることが保証されています。
つまり、第1審裁判所である地方裁判所(全国都道府県にある)の判決に不服があれば、不服のある当事者は第2審裁判所である高等裁判所(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡にある)に「控訴」することができます。さらに、高等裁判所の判断に不服があるのであれば、不服のある当事者は最終審裁判所である最高裁判所に「上告」できます。
最高裁判所は、ご承知のとおり全国で1箇所にしかなく、全ての裁判所のいわば頂点に位置します。そして、地方裁判所の判決にも高等裁判所の判決にも不服申立がある限り、一定の条件さえ満たせば、全ての事件について最終的な判断をするという裁判所です。
したがって、国会の制定する法律について統一的な解釈が示されるのです。
そのため、最高裁判所の判例は三権分立のうち「司法権」の最終判断であり、国会が制定した法律にも準じた役割を果たします。
そして、最高裁判所が下した判断はその後の地方裁判所や高等裁判所の判断への影響力が極めて大きく、同種の事件が起こった場合に、その紛争が裁判所に持ち込まれれば、最高裁判所と同様の結論が示される蓋然性があります。したがって、法的な紛争解決に当たっては大きな指針となります。

【ハンセン氏病訴訟】
小泉首相が控訴をしないという決断をした「ハンセン氏病訴訟」を例にとって考えると、熊本地方裁判所は「らい予防法を廃止しなかった国会は不法行為責任を負う」ことを理由として、原告の請求を認め、国の主張を退けましたが、国としては法律上はこの判断を争うために「控訴」することが出来たのです。
国の立場に立って考えてみると、控訴をしないとなると、判決が確定することとなり、国会の不法行為責任を認めた判例が先例として残り、例えば他の薬害訴訟についても、適切な立法をしなかった国会について不法行為責任を認めざるを得なくなるという危惧(あくまで国には責任がないと主張して争っている国から見て)があったわけです。
国会は本来国民の代表たる国会議員が自由に議論して法律を制定するという機関ですから、後々裁判所から「あの法律を制定したことは不法行為である。したがって、国家賠償責任をせよ。」と命じられるとすれば、多様な政策的判断をしづらくなるというデメリットがあるということです。
国ないし政府としては、当初被害者に対する救済策は講じた上で、法律の統一的な解釈を求めて控訴し、まずは高等裁判所の判断を受けるべきであるという方針を採ろうとしていたようです。仮に国が控訴して高等裁判所もまた国敗訴の判断をしたということになれば、国ないし政府としては、国会の立法活動について最終的・統一的な法律判断を求めるべく最高裁判所へ上告することもあり得たでしょう。
小泉首相は法律の統一的な解釈よりも、被害者がそれまで置かれた境遇、高齢を考慮して控訴をしないという「政治判断」を行ったことになります。