新会社法による取締役の責任
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今回は新会社法による取締役の責任の概略をみていきたいと思います。
取締役が会社に対して責任を負わなければならない行為として、従来は商法266条にまとめて規定していましたが、新会社法では、3つの条文に散らばっています(以下の括弧の中の条文はすべて新会社法の条文です)。

新会社法では、任務を怠ったときには損害賠償責任を負うとされています(423条1項)。
現行法たる商法では、取締役が「法令や定款に違反する行為を為したるとき」に損害賠償責任を負うと定められていますが、ここでいう「法令」の中には取締役の「忠実義務」規定も含まれ、「任務を怠ったとき」と「忠実義務に違反したとき」はほぼ同じ意味なので、この点で新旧の条文の意味に変更はありません。
これらは言わば当然のことを規定したもので、ここでいう「任務」又は「忠実義務」の中身は主として、会社の意思決定の過程で尽くすべき注意義務を意味します。その意味で、423条1項は、過失責任(過失なければ責任なし)の前提に立っています。つまり、会社の意思決定の過程で取締役が尽くすべき注意義務を尽くしたにも関わらず結果が起こってしまったとしても責任を負いません。

商法ではこの法令・定款違反とは別に4つの責任、すなわち、「違法配当」、「株主に対する違法な利益供与」、「取締役に対する金銭の貸付けについて弁済がないとき」、「利益相反取引・競業避止義務違反によって会社に損害が生じたとき」のそれぞれについて取締役の責任を規定していました。
新会社法ではこれらを整理して、「違法配当(462条)」、「株主に対する違法な利益供与(120条4項)」、「競業義務違反(356条1項1号)・直接的利益相反取引(同2号)・間接的利益相反取引(同3号)により会社に損害が生じたとき(423条2項、3項)」としています。「取締役に対する金銭の貸付けについて弁済がないとき」は、「利益相反取引」に含められるものとして整理統合されました。
商法ではこの4つの責任は無過失責任として規定されていました。つまり、過失がなくとも責任ありとの前提に立っていました。もちろん、これを率先して行った取締役は、通常は故意に行っているので無過失責任か過失責任かは問題となりません。しかし、取締役会で異議を述べなかった取締役も同等の責任を負うことになっていましたので、無過失責任とすると、場合によってはあまりに厳しいことがあります。
百貨店のそごう事件では、そごうが粉飾決算をして違法な利益配当をした事案で、裁判所は、就任したばかりで特に財務の仕事をしたことがなかった取締役の責任を免除しました。裁判所は判決の中で、「仮に法が理想とするような勤勉かつ有能な取締役であったとしても、決議に反対することが期待できないような場合にまで、決議に賛成した取締役の損害賠償責任を認めるものではない」と述べており、限定的ではありますが過失責任と解釈するべきであるとしています。
新会社法では、このような批判を受けて、原則として過失責任としました。一方で、違法な利益供与に関与した取締役(120条4項括弧書き)、自己のために利益相反取引をした取締役(428条)については従来どおり無過失責任としています。また、取締役会で異議を述べなかった取締役も、賛成したものとして同等の責任を負う(369条4項)ことは商法と同じです。

新会社法によって商法より取締役の責任が軽減されたのかという点については判例の集積をまたないと断定することはできませんが、筆者は従来の判例理論による商法の修正を明示しただけと考えています。

なお、大企業などでは社外取締役が選任されていることもありますが、社外取締役の場合、責任限定契約(427条)による責任の軽減が定められています。この制度は、従来からありますが、この契約をするためには社外取締役とそうでない取締役の報酬を分けて開示することが条件となっていたことから、あまり利用されていなかったようです。
新会社法では、来年の株主総会からは、いずれにしても、このような分別開示が必要となったことから、責任限定契約の利用が促進されるものとみられています。