採用内定取り消しの有効性
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企業が採用を行う際に、それに先立ち採用内定通知を出すことがよくあります。平成16年6月23日、東京地裁において、中途採用者の採用内定取消を無効とする判例が出ました。今回はその判例をご紹介します。
採用内定とは、法律的にはどのような性質を持つのでしょうか。
一般には、「始期付解約留保権付労働契約」であるとされています。
すなわち、労働を開始すると合意されている時期を、労働契約の効力の発生時期とし、かつ、それまでに卒業できなかった場合や、病気等により正常な業務ができなくなった場合に、解約できることを条件としている労働契約、と考えるのです。
ただし、合意されていればどんな解約権でも認められるのではなく、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られます。
例えば、企業側が、内定時には、予想もできなかった不況の深刻化で会社の人員を大幅に変更せざるをえず、中高年の管理職にも辞めてもらわなければならない事態になってしまった場合や、本人が内定時に申告していた経歴・学歴に重要な点で虚偽があったことが判明した場合、学生時代に暴力的な刑事事件で逮捕されていたような場合以外は、内定取消は認められないとされています。本判決の事案は以下のとおりです。
判決の原告は、5月28日に被告会社の入社試験を受け、6月16日に内定通知が出されました。ところが、被告会社は、6月27日になって、原告に悪い噂があるとして、採用内定を留保しました。調査のうえ、7月3日に再度社長と会長が原告と面接し、再度採用するとの内定通知をしました。ところが、7月10日に再度、同じ悪い噂の存在を理由に被告会社は原告の内定を取り消しました。
これに対し、裁判所は、悪い噂が事実であると認めるに足りる証拠がないとし、被告会社の採用内定取消しには客観的に合理的と認められる理由がないとし、約200万円(うち未払い給与100万円、慰謝料100万円)の損害賠償を命じました。
未払給与とあるのは、原告が就労できなかったのは、被告会社が原告の就労を拒否していたからであるため、業務に従事しなかったからといって原告の給与請求権は失われない、との判断に立つものです。
一般に、内定の場合、企業は往々にして安易に内定を取消しがちですが、このように厳しいペナルティーを被る場合があることに注意が必要です。