抵当不動産の賃借人に対し抵当権者の明渡請求が認められる
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土地建物に抵当権を有する会社が、建物を占有する賃借人(正確には転借人)に対し明渡を求めていた訴訟で、最高裁は3月10日これを認める判決をしました。
これまで最高裁は平成11年の大法廷判決で、抵当権者による「不法占有者」に対する明渡請求を認めていましたが、今回の判決はさらに一歩進んで、建物所有者との関係では適法な占有権原をもつ賃借人に対しても、その占有について「競売手続を妨害する目的が認められ、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき」は、その不動産を抵当権者に明け渡すよう請求することできるとしました。
この判決は、債権回収の実務に大きな影響を与えるものとみられています。

何者かが債務者から頼まれるなどして抵当不動産にいわゆる短期賃借権(平成15年の民法改正で廃止)を付け、あるいは単に何らの権原なく占有して、抵当不動産の買受申し出を躊躇させ、結果、買い手がつかずに競売が妨害されることが往々にしてありました。
このとき債務者など抵当不動産の所有者に、占有者の追い出しを期待することはできないので、抵当権者が訴訟を起し、自らの権限つまり抵当権を根拠に、あるいは抵当不動産の所有者の権利を代位行使することで、占有者を追い出せれば好都合です。
しかし、抵当権は「債務者又は第三者が『占有を移転しないで』債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利」(民法396条。)であり、抵当権者は、抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできないのが原則です。企業は不動産に抵当権を設定しても、そこを占有し続けて企業活動を行うことができ、そこから上がる収益を返済に充てていくことができます。
平成3年の最高裁判決は、このような原則論に立って、「抵当権者は、短期賃貸借が解除された後、賃借人等が抵当不動産の占有を継続していても、抵当権に基づく妨害排除請求として、その占有の排除を求め」ることはできず、「債務者たる所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使して、その明け渡しを求めることも」できない、としました。この判決には「執行妨害の現実に目を瞑る(つぶる)もの」との批判が相次ぎました。

そうした中、最高裁が判例を変更したのが前記の平成11年大法廷判決です。最高裁は次のとおり判示しました。「第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して有する右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる。」

この判決は債権回収の現場から概ね歓迎されたようですが、建物所有者から賃借するなどして、形式上は適法な占有権原を有する占有者に対して、明け渡しを請求できるかまでは示されていませんでした。
この点について今回の最高裁判決は、平成11年大法廷判決と同様に、「競売手続を妨害する目的が認められ、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき」に占有の排除を求めることができるとしました。さらに、その根拠として、「所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権の代位行使」という構成をとらずに、自らの権利すなわち「抵当権に基づく妨害排除請求権」に基づいてすることができる、と明言しました。

問題はどのような占有が「競売手続きを妨害する目的」が認められ、それにより「抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態」となるかということです。
今回の最高裁判決がその根拠として認定した事情は以下のとおりです。
(1)債務者たる抵当不動産の所有者が約17億3000万円という債務の分割弁済を一切行わなかった、(2)抵当権者の合意に反して建物を賃貸した、(3)賃借人と転借人(ともに会社)の代表取締役が同一である、(4)賃料、転貸料の金額が適正な賃料額を大きく下回っている、(5)敷金額又は保証金額が賃料額に比して著しく高額である(買受人は法律上当然に敷金等の返済義務を引き継ぐことから、執行妨害の手段となりうる。筆者注)、(6)競売手続が進まない状況下、抵当不動産の所有者(の代表取締役。かつて転借人の取締役だった)が敷地の抵当権を100万円の支払で放棄するように抵当権者に要求した。
本判決は平成11年大法廷判決によって強化された抵当権の効力をさらに強力なものとするものであり、法理論的にも興味深い判決です。