投資契約とはどのようなものか?(第1回)

<ポイント>
◆複雑な契約も予備知識をもっておけば理解しやすい
◆株価、表明保証、誓約条項、株式買取条項は基本的な重要事項

政府系あるいは民間の投資ファンドが新設されるというニュースを近時よく目にします。事業再生、休眠特許、電力事業などファンドごとに投資対象はさまざまですが、ベンチャー企業への投資もふたたび活発化してきたようです。
ベンチャー投資を念頭において2回にわたって「投資契約」について概観してみます。
なお、基本パターンとして株式発行により投資を受け入れるケースを前提に説明します。新株予約権やCB(転換社債)を用いるケースもありますが、それらについては別の機会に紹介します。

ベンチャーキャピタル(VC 正確にはその傘下のファンドが投資を行う)は投資先であるベンチャー企業あるいはその経営者と投資契約を交わしたうえで投資を実行します。
この投資契約はボリュームも多く複雑な条項も含まれますが、ざっとした予備知識をもっておくことで理解しやすくなり投資条件の交渉にも役立ちます。

投資契約ではまず、投資目的やいわゆるイグジット(投資回収)の目標時期を定めたうえで、1株あたり株価をいくらとして、いつ・どれだけの投資が実行されるのかを定めます。
イグジットについては株式公開(IPO)を謳うことが多いですが、現実にはM&Aも含めて検討していくことになるでしょう。
また、1株あたりの株価が低いと、一定額の資金調達を行うにはそれだけ多くの株式を発行することとなり、経営者側からみれば自分の持株割合が低下することを意味します。
このため、経営者側は株価を高く設定するため、将来の成長可能性も含めた企業価値を積極的にアピールしていくことになります。
ただし、あまり実態にかい離した高値で株価を設定してしまうと、ベンチャー企業自身にとっても後々の足かせになってきます。
直近時期に収益をあげることができないベンチャー企業にあっては、初回投資であるラウンドAの後もラウンドB、ラウンドCの株式発行を行って運転資金、開発資金を賄っていく必要があります。過去の投資ラウンドよりも低い株価設定で新たに株式発行することは「ダウンラウンド」といわれ、発行済み株式の価値を希薄化するものとして投資家に敬遠されます。ラウンドBではラウンドAよりも高い株価設定が要求されます。
ラウンドAで株価を極端に高値に設定しすぎると、ラウンドBでの株価交渉が難航する要因になってきます。

また、投資契約では、投資の前提となる事項を明らかにするための表明保証条項(レプワラ)や、投資家の権利保護のための誓約条項(コビナンツ)がおかれます。
表明保証や誓約条項の一般的な意義については私が執筆した法律情報の「表明保証(レプワラ)と誓約条項(コビナンツ)」(2011年11月1日掲載)をご覧ください。

会社設立や事業遂行が適法になされていることや発行済み株式の数・内容に関する表明保証のようにパターン化した条項もあれば、ケースバイケースで追加される条項もあります。
誓約条項では、一定の事項についてVCに対する通知が要求されたり、あるいはM&Aや新株発行のような重要事項についてVCの事前承諾を得るべきことが謳われます。
表明保証した内容に誤りがあったり誓約条項に違反してしまうと、ペナルティとしてVCから損害賠償請求を受けたり株式買取りを求められることになります。
投資を受けた後のベンチャー企業・VC間のコミュニケーションのあり方に関わる事項であり、よく確認しておく必要があります。
また、複数のVCから投資を受ける場合も要注意です。ある程度まではパターン化しているとはいえVCごとに投資契約の内容は少しずつ異なっています。
あるVCとの関係では事前通知しておけば足りる事項が他のVCからは事前承諾が必要とされているなどのケースがありえます。また事前通知が必要となるタイミングも1週間前であったり2週間前であったりと一律とはかぎりません。

株式買取条項も重要です。
一定の事由に該当した場合、ベンチャー企業あるいはその経営者がVCから株式を買い取らなければならないことが規定されます。
その場合の買取金額の算定方法についても定められます。いわばペナルティ条項であり、買取金額が最低でも投資金額以上となるように規定されるのが通常です。
表明保証や誓約事項について重要な違反があった場合に株式買取義務が生じることは、外部資本を受け入れるうえでやむをえない範囲の負担です。
しかし、VCによっては、定められた時期までに株式公開できない場合にも株式買取りを要求してくることがあります。この点は問題です。
投資金額以上での買取りを義務づけられることも合わせて考えると、時間の経過によってベンチャー企業・経営者側に買取義務を負わせるのでは、いわば金銭の貸付けにひとしいこととなります。エクイティファイナンスの本質にかかわる事項であり、このような株式買取義務を定めることには疑問をおぼえます。

このほかにも重要な契約条項としてM&Aなどの際の対価配分ルール、投資家による役員派遣、投資家間の権利バランスを維持するための最恵待遇などを取り決めますが、これらについては第2回の記事で解説します。