役員退職金は受け取れるとはかぎらない

会社の取締役または監査役に就任し、その任期を終えて退任するとき、通常は役員退職金(正確には「退職慰労金」)を受け取ることができます。しかし、当然もらえるものと期待していると、その期待が裏切られることがあるので注意を要します。
大会社であれ、中小会社であれ、法律上、会社が退職慰労金を支払うためには株主総会の決議が必要とされています。
通常は、まず取締役会で、「退職慰労金を支給するという議案を株主総会に上程する」という決議がなされ、それが株主総会にかけられ、多数決の賛成で承認されます。
しかし、何らかの事情で株主総会の決議がなされないときは、退任役員に退職慰労金は支払われず、法律上、退任役員からその支払いを請求することもできません。
多くの会社では、役員退職金の支給基準についての規程(内規)が定められていますが、株主総会の決議がない以上、これだけが適用されることもありません。
それでは、株主総会で決議がなされないのはどういう場合か。
株主総会にその議案が上程されたにもかかわらず出席株主の半数以上の反対でそれが否決された、という場合もなくはありません。しかし多くは、株主総会前の取締役会で、株主総会の議案として決定されない、つまり、そもそも株主総会に退職慰労金支払い議案が上程されない場合です。
なぜ株主総会に上程されないか。
本人以外の取締役や代表取締役が、退任しようとする役員の在職中の功労を認めないとか、内紛で私怨を抱いているとか、会社の業績が芳しくなく支払い原資がない、とかの理由で、支給に反対するからです。
退任する役員には、この取締役の多数決の判断に対し、抵抗、反発する有効な手段がありません。なぜなら、取締役会の判断には裁量権があり、理由のいかんを問わず、自由な判断で否決することが可能なのです。
そこで、これに承服できないとする退任役員は、会社に対する請求権は発生しないとしても、支給に反対して株主総会に上程されないようにした個々の取締役に対し、不法行為に基づく損害賠償請求の訴訟(商法266条の3)を起こすことがあります。
しかし、多くの場合、これに対して裁判所が下す判断(例えば平成16年2月12日大阪高等裁判所判決など)は退任取締役に冷淡です。
上記のとおり、退任役員の退職慰労金請求権は、あくまで株主総会の決議があってはじめて発生する権利であって、それまでは権利とは言えない。したがって、株主総会の決議がなされない限り、会社にも現取締役個人にも何らの義務も生じていない、と判示しています。
学者の中にはこの判決に反対する説もありますが。