建設工事紛争審査会について
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<ポイント>
◆「建設工事の請負契約に関する紛争」を取り扱う
◆あっせん、調停、仲裁を行う裁判外紛争処理機関である
◆紛争当事者に仲裁合意があれば、仲裁を求めることができる

現在、大阪府建設工事紛争審査会で、仲裁手続の代理人を担当しています。
過去にも建築紛争の事件をよく担当していましたが、多くは地方裁判所における民事訴訟手続でした。
大阪地方裁判所では第10民事部が建築・調停部とされており、建築関係訴訟を専門に取り扱っています。
建設工事紛争審査会の取扱件数は平成25年に全国で53件とそれほど多くなく、ちょっと珍しい機関、手続ですので、簡単にご紹介します。

建設工事紛争審査会は、建設業法に基づいて設置される機関です。
「建設工事の請負契約に関する紛争」の解決を図るために、あっせん、調停、仲裁を行う準司法的機関、ADR(裁判外紛争処理機関)です。

審査会が対象とするのは「建設工事の請負契約に関する紛争」であり、当事者の少なくとも一方が建設業者である場合の紛争を扱います。
工事の瑕疵や請負代金の未払いなどのような工事請負契約の解釈、実施をめぐる紛争の処理を取り扱います。
例えば、建設業者との間で、請負契約に関する紛争が生じた場合、個人ないし法人の発注者から申請して、この手続を利用することができます。

国土交通省に中央審査会がおかれ、各都道府県に都道府県審査会が置かれています。
最高裁判所ないし高等裁判所と、地方裁判所のような上下の関係はありません。
当事者の一方又は双方が国土交通大臣許可の建設業者の場合、または、当事者の双方が建設業者で、許可した都道府県知事が異なる場合は、中央審査会の管轄となります。
当事者の一方のみが建設業者で都道府県知事許可の場合、または、当事者の双方が建設業者で、許可した都道府県知事が同一の場合などは、都道府県審査会の管轄となります。

審査会で審理に当たる委員は、国土交通大臣または都道府県知事によって任命され、任期は2年です。
弁護士を中心とする法律委員と、建築、工事などの各技術分野の学識経験者などの専門委員とがあります。
仲裁手続においては、3人の委員のうち、1人は弁護士でなければならないとされています。

審査会における手続は、裁判外の手続であり、第一に、当事者の歩み寄りによる解決を目指すあっせん、調停を求めることができます。
あっせんは調停よりも簡略な手続とされ、原則1名のあっせん委員が担当して、1、2回の審理で解決がつくとされています。
あっせん委員は、双方の主張の要点を確かめ、事件が解決されるよう努めなければなりません。
逆にいうと、一人のあっせん委員の審理で足りるような、技術的または法律的な争点が少ない場合に適しているということになります。
訴訟や仲裁よりもかなり費用が安く、調停よりもさらに費用が安くて済みます。
ここでいう費用は申請手数料のことです。

調停も、当事者の協議を促して解決を図るものですが、3名の調停委員が担当します。審理回数は3~5回程度とのことです。
審査会は調停案を作成し、当事者にその受託を勧告することができますので、3名のいわば合議によって技術的・法律的な争点を整理して、解決を図っていくに相応しい事案が適していると考えられます。

さらに、当事者間で「仲裁合意」があれば、裁判所に代わる判断を求める仲裁を求めることもできます。
つまり、建築紛争審査会の仲裁判断に双方拘束されるとの前提で、双方が紛争解決を仲裁に委ねるとの合意があれば、仲裁判断を求めることができます。
この審査会における仲裁手続には、仲裁法の適用があり、証人尋問等の証拠調べをすることもできます。
私が経験している限りにおいても、双方の主張と反論は、書面を交互に出し合い、書証をそれぞれ提出して行っていますので、これらの点で、通常の訴訟と同様の進め方をしています。
1、2カ月に1回のペースで審理期日が設けられ、大阪府庁が入るビルの1室で非公開の手続で行われています。
委員3人が会議室の奥側に並んで着席し、申請人側、被申請人側が、対席しているのも訴訟と似ています。
審査会は、必要な調査を終了したときは、速やかに仲裁判断をしなければならず、その判断は書面でなされ、理由が付されなければなりません。
その仲裁判断は確定判決と同一の効力を持つことになります。したがって、不服申し立ての制度は基本的にはありません。

比較的安い費用で、技術的、法律的な知見を利用しながら、紛争解決を図ることができますので、裁判所の調停などと比べても、活用の余地はあるように思います。
仲裁はその性質上、不服申し立て制度がないのが懸念ともいえますが、弁護士たる委員1名の法的な論点整理を踏まえつつ、専門委員2名の知見が活かせるので、より専門的で建築合理性ある判断がなされることが期待される手続です。
請負契約に仲裁合意がある場合など(これを解除できる場合もあります)、紛争解決手段の一つとして、考慮に入れておくべきと考えられます。