小売業者の販売方法に関する制限について

<ポイント>
◆商品の適切な販売の合理的な理由が認められるか
◆他の取引業者に対しても同等な条件が課されているか
◆販売方法の制限を手段として、販売価格の制限を行っていないか

公正取引委員会は独占禁止法に関して寄せられた個別の相談について、その主要なものの概要を相談事例集として公表しています。
平成26年度の相談事例集において、「小売業者の販売方法に関する制限」事例が取り上げられているので、ご紹介します。

公取委が公表している「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(流通・取引ガイドライン)では、メーカーが小売業者の販売方法に関して制限することについて、次のように定めています。
「メーカーが小売業者に対して、販売方法(販売価格、販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することは、商品の安全性の確保、品質の維持、商標の信用の維持等、
当該商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ、かつ、他の取引先業者に対しても同等の条件が課されている場合には、それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。」

相談事例集では、まず、あるインテリア用品の国内製造販売分野において約30%(1位)のシェアを有するメーカーが、自社商品の安売り広告を禁止することについての回答事例が掲載されています。
メーカーはそのインテリア用品についてメーカー希望小売価格を設定しており、その商品はデザインや材質にこだわった商品で、一般消費者の間でも高い評価を得ており、これを取り扱うことも希望する小売業者も多い、
他方で、この商品は小売業者において安売りが行われていることも多く、特に大規模小売御者ではメーカー希望小売価格の30%から40%引きで大幅な安売りを行うとの広告で大々的に宣伝している、
そのため、メーカーには大規模小売業者の近隣の小売業者から、その安売りに関する苦情が寄せられるようになり、メーカーは全ての小売業者に対して、その商品の安売り広告をしないように要請し、これに従わなければその商品の出荷停止も有り得るとの通知を検討しているというのが、メーカーの相談です。
これに対して、公取委は、メーカーが自社商品について小売業者の安売広告を制限するものであり、小売業者間の価格競争が制限され、メーカーの当該インテリア用品の販売価格が維持されるおそれがあることから、「拘束条件付取引」に該当し、独占禁止法上問題となると回答しています。
広告・表示の方法は販売方法の一つではありますが、「メーカーが小売業者に対して、店頭、チラシ等で表示する価格について制限し、又は価格を明示した広告を行うことを禁止すること」は、「これによって価格が維持されるおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる」と流通・取引ガイドラインに記載されており、これに沿ったものです。

次の事例は、ある健康器具の国内製造販売分野において約35パーセント(1位)のシェアを有するメーカーが、自社作成のひな型を用いての商品説明を広告で行うことを小売業者に義務付けることに関するものです。
この健康器具の売上高は年々増加しているところ、インターネット販売を行う小売業者のホームページにおいて、器具の効能・効果について、虚偽・誇大な広告が行われるようになったことへの対応策として説明義務付けが検討されているという事例です。
これに対して公取委は、冒頭の基準を示したうえで、健康器具の虚偽・誇大広告を防ぐため、自社作成のひな型を用いて商品説明することを小売業者に義務付けることは、「商品販売の合理的な理由が認められ、かつ、全ての小売業者に対して同等の条件が課せられている」ことから、独占禁止法上の問題となるものではないと回答しています。小売業者のインターネット販売で、現に、虚偽・誇大な広告が行われているということがポイントで、現実にこれを排斥する必要性が認められるという事例でしょう。

同じ商品説明であっても、公取委が反対の結論を示したのが次の事例です。
ある電子機器のメーカーで、その機器の国内製造分野では上位3位に入っている会社が、小売業者に対し、店舗での対面による操作方法の説明を義務付けて、インターネットを利用した販売を禁止することについて、公取委は、電子機器の販売価格が維持されるおそれがあり、拘束条件付取引に該当し、独占禁止法上問題となる、と回答しています。
流通・取引ガイドラインでは、ある制限事項を遵守しない小売業者のうち、安売りを行う小売御者に対してのみ、不遵守を理由に出荷停止等を行う場合は、通常、販売方法の制限を手段として、販売価格について制限を行っていると判断されるとしています。
この電子機器メーカーの事例では、小売業者は、店舗販売のほか、インターネットで店舗より安く販売していることから、対面での説明義務付けを行わない小売業者への出荷停止は、つまるところ、インターネットで店舗より安く販売している小売業者をターゲットとしたものと考えられます。
さらに、この事例では、メーカーはこれまで小売業者に対して、電子機器の操作方法の説明を求めておらず、一般消費者からもその電子機器に関する問い合わせがほとんどないとのことです。
そうすると、対面販売での操作方法説明の義務付けと、機器の安全や機能性維持など何らかの目的との関連性は認められない、ということだと考えます。対面での説明義務付けは、販売価格についての制限を行うための手段と考えられるとされた事例です。

最後の事例も小売業者に商品の説明を義務付けるものです。小売業者に対して、一般消費者への新商品の機能を説明することを義務付けることについての相談です。
機械製品のメーカ―で、その製品の製造販売分野におけるシェアは約40%(1位)であり、競争業者として複数のメーカーが存在する事例です。
小売業者はその製品を店舗販売のほか、インターネット販売もおこなっているところ、そのメーカーが、新商品販売にあたり、小売業者に対し、その機能説明を一般消費者に義務付け、店員による説明のほか、自社作成の動画の小売業者のショッピングサイトへの掲載を求めることを検討しているとのことです。
この事例で公取委は、義務付けが過度ではなく、新商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ、同等の条件が全ての小売業者に課せられるとして独占禁止法上問題となるものではない、と回答しています。
前記の電子機器メーカーの事例とは異なり、インターネット販売自体を禁止するものではありません。販売価格についての制限を行う手段といった事情も認められないという事例です。

メーカーが小売業者に課す制約について独占禁止法上の検討が必要な場合がよくあります。上記4つの事例を比較して検討することが、実際にも参考になるものと思われます。